子どもの運動会で、わが子が一番楽しみにしていたリレー。見えにくい場所から「仕方ないよね」と応援していました。すると突然、初対面の保護者の方がこちらを振り返り、思いがけないひと言をかけてくれたのです。その優しさは、今でも忘れられません。
「仕方ないよね」と諦めていたリレー

子どもの小学校の運動会での出来事です。コロナ禍をきっかけに、わが子の学校では運動会が半日開催になり、以前あった場所取りもなくなりました。その代わりに導入されたのが、「カメラ席」。
自分の子どもの学年の競技中だけ移動できるスペースで、前の学年の競技が終わると同時に入れ替わる仕組みです。早く並べば最前列、少し遅れると二列目、三列目になります。
このシステムのおかげで、それまでの競技は問題なく撮影できていました。ところが、子どもが一番楽しみにしていたリレーだけは、少し出遅れてしまったのです。私たちが立てたのは二列目。前には同じ学年の保護者の方が並び、わが子が走る姿は少し見えにくい位置でした。
「ビデオ撮れそう?」
夫に聞くと、
「うーん……微妙かもしれんけど、とりあえず撮っとく」
「仕方ないよね」
ルールなのだから誰が悪いわけでもありません。最前列の人がいれば、後ろになる人もいる。そう自分に言い聞かせながらも、何週間も前から「絶対リレー頑張るから見といて!」と張り切っていた子どものことを思うと、「もう少し見やすい場所だったらな」と、少しだけ残念な気持ちになっていました。
突然かけられた、思いがけないひと言

リレーが始まり、前の保護者の方のお子さんが走ります。その姿を一生懸命応援している様子が伝わってきました。そして、そのお子さんの出番が終わった直後のことです。その方が、くるっとこちらを振り返りました。
「うちの子の出番終わったので、良かったらどうぞ」そう言って、場所を譲ってくださったのです。思わず、
「えっ、いいんですか?」と聞き返すと、その方は笑顔で「どうぞ、どうぞ」と言って少し横へよけてくださいました。
声をかけてくださったのは、同じ学年ではあるものの、これまで一度も話したことのない初対面の保護者の方でした。知り合いでもない私たちに、何のためらいもなく場所を譲ってくださったのです。その優しさに、温かい気持ちになりました。
私だったら、同じことができただろうか
お言葉に甘えて前へ移動すると、わが子が走る姿がよく見えました。一生懸命バトンをつなぐ姿も、ゴールまで全力で走る表情も、しっかりとビデオに残すことができました。
もちろん、その姿をしっかり見届けることができたことも嬉しかったのですが、先ほどの出来事も私の心には残っていました。
「自分の子どもが終わったから、次はあなたのお子さんを」
きっと、その方はそんな気持ちで声をかけてくださったのでしょう。そして、ふと思いました。もし私が逆の立場だったら、同じことができただろうか。知り合いなら「どうぞ」と声をかけられる気がします。でも、初対面の人となると、「余計なお世話かな」と考えてしまって、見えやすいように少し体をずらすくらいで終わっていたかもしれません。
だからこそ、あの一言は私にとって、とても大きな優しさでした。ほんの数歩場所を譲るだけ。でも、その数歩で、こんなにも温かい気持ちになるんだと知りました。
子どもに残したいのは、こんな思い出

運動会の主役は、もちろん子どもたちです。でも、あの日私の心には、子どもの一生懸命頑張っている姿だけではありませんでした。初対面でも自然に相手を思いやれる人がいること。少し譲り合うだけで、誰かが笑顔になれること。そんな何気ない優しさも、子どもたちはきっと見ています。
あの日、場所を譲ってくださった保護者の方は、もしかすると「大したことじゃない」と思っているかもしれません。でも、その何気ない行動のおかげで、私は今でもその運動会を思い出すたびに温かい気持ちになります。
人は、誰かの親切を受け取ると、「今度は自分も誰かを返したい」と思えるものなんですね。次に同じような場面があったら、今度は私が自然に「どうぞ」と言える人でありたい。そして、そんな背中を子どもにも見せていけたらいいなと思っています。
(ファンファン福岡公式ライター/Rina.M)





