平日の夕方。夫が不在だったため、子どもたちと3人で近所の定食屋さんに行ってみようと計画していました。その定食屋さんで起こった冷や汗ものの事件。しかし店主の優しい言葉に救われた体験です。
待望の定食屋さんに入ったけれど…

いつもお店の前を通るたびに「ここ入ってみたい!」と言っていた子どもたち。何度も言うので、そんなに言うならと気軽な気持ちでお店の暖簾をくぐりました。
時刻は夕方の5時。夜ごはんには早い時間だったからか、お客さんは私たちだけでした。驚くほど静まり返っている店内に響くラジオの音。「いらっしゃい」と不愛想な声がして、奥を見ると座敷に店主らしき人が座っていました。
想像以上に子ども向けじゃないお店に、一瞬で「気軽にはいるんじゃなかったかも」と後悔の念が押し寄せました。それでも入ってしまった以上、「間違えました」も「やっぱりやめます」も言えません。
私が店内をそろりと見渡すと、店主らしき人は「好きなところに」と立ち上がりました。いかにも「頑固一徹」「職人」といういで立ちに心臓がバクバクし始める私。子どもたちもお店の雰囲気に押されてか少し静かです。
私たちは一番近くにあった座敷席に座りました。4歳の息子と8歳の娘が2人で座るというので、私は2人を挟んだ向かい側に座ります。するとすぐに店主が水を運んできてくれました。
何も言わずにグラスになみなみ入ったお水を置く店主。「あ、ありがとうございます」と恐縮しながらお水をもらう私。そんな店主をぶしつけにじっと見つめる子どもたち。
ぶちまけた水

そのときです。メニューをとろうと手を伸ばした娘と、手前の水をとろうとした息子のおでこがゴツン!「いてっ」と手を引っ込めた勢いで、娘のひじがコップの水にぶつかりました。
「あっ」と思ったときにはもう遅く、バシャーンと嫌な音が響きました。なみなみ入っていたお水は豪快にテーブルを駆け抜け、滝のように畳の上・床へと広がっていきます。
「わーっ!」
と悲鳴をあげ慌てておしぼりで水の勢いを止める私。娘も慌てた様子で自分のおしぼりで、畳に落ちた水を拭きます。
目の前で広がる水たまりに焦る私。
静かな飲食店。頑固そうな店主。わが子がやってしまった大惨事。
怒られるかもしれない。
そう考えながら心臓が爆発しそうになっていたときでした。目の端で店主がこちらに歩いてくるのが見え、思わず「す、すみませんっっ!」と頭を下げました。ずんずんと近づいてくる足音に緊張が高まります。
「ほいほい、これ新しいおしぼりね」
かけられた言葉は想定外の優しいトーンでした。「え…?」とキョトンとしてしまう私。店主の顔を見ると、目じりにたくさんしわができるほど温かい笑みが。
かけられた優しい言葉

すると慣れた手つきで濡れたおしぼりを拾い、雑巾で畳と床をふきあげてしまいました。「あの、すみません…」と言うと店主は「大丈夫、大丈夫。夜におじさんたちがこぼす量よりかわいいもんよ」「子どもは濡れてないか?」と気づかってくださいました。
最後に「子どもは水こぼしてなんぼだからな。気にすんな」と娘に向かってニカッと笑いました。
さっきまで静まり返っていた店内に無言の圧を感じていた私。その緊張が嘘のようにスルスルと解けて、張りつめていた空気が安心へ変わりました。
その後運ばれてきた料理は特別おいしく感じました。子どもたちはこのお店の料理を相当気に入ったらしく、いつも以上にバクバクほおばる様子にホッと胸をなでおろす私。
途中店主は様子を見に来てくれて、「どうだ?水こぼしてないか(笑)」と声をかけてくれました。
すると子どもたちは興奮気味に、「この唐揚げ、今まで食べた中で1番好き!」「〇〇のハンバーグよりおいしい!」と口々に話し、店主は満足そうに「そうかそうか」とニコニコ。会計時には「ちょっと待っててな」と言って奥からもってきた駄菓子をくれました。
とびきりの優しさに包まれて
怖そうに見えたけれど、とびきりやさしい方だった店主さん。最後には「またいつでも来いな~」と言ってくださいました。
子連れでの外出は、周りに迷惑をかけないかと肩身が狭くなることも多くあります。だけれど、店主さんのように子どもや親を大きな心で包み込んでくれる方がいる。そんな大人のカッコよさを知ることができた体験談でした。
(ファンファン福岡公式ライター/K)





