木のおもちゃ屋で、ひとやすみ。【第8回よむ】

「木のおもちゃ・おひさまや」がある福岡県新宮町には絵本や児童書を扱う書店が1軒しかないので、店の片隅に棚を置いて、本も販売しています。大型書店に平積みしてあるベストセラーは置いてません。並んでいるのはロングセラー絵本や、食事、発達、保育、療育、性教育など子育てにおススメの本で、店主が1冊ずつ選書しています。
壁1面に4段だけの小さな本棚ですが、なんと月に100冊は売れていく、すごい本棚なのです。
今回は読書「よむ」にまつわるおはなしです。

目次

ちょっと変わった読み聞かせのかたち

私自身、子どもの頃から本を読むのが好きでした。
残念ながら両親は忙しく、父や母の膝に座って絵本を読み聞かせしてもらった記憶が私にはありません。
でも幸い、本を買い与えることに積極的な親でした。
母は買い物の途中で本屋に寄ると「今日は2冊まで」と、買っていい冊数を私や妹に伝え、好きな本を選ばせてくれました。

私たちが選んだ本を見て「それはダメ」と言われたことはありません。
当時人気だった「アニメ日本むかしばなし」のブックレットを集めたかった私は、たっぷり時間をかけて1冊や2冊選びました。自宅には50冊以上のブックレットがありました。

仕事が非常に忙しく不在がちだった父は、ブックレットのおはなしを読んだ声をカセットレコーダーでカセット(=カセットテープ…ってご存知ですかね?)に録音しました。
父がいない時、私と妹はブックレットを見ながら父の声を聞きました。
今思えば、仕事で忙しい父が、子どもたちと関わる方法をあれこれ考えた末の策だったのかもしれません。
わが家の読み聞かせは、こんなちょっと変わったスタイルでした。

「本を読みなさい」ではなく「本を読むのをやめなさい」?!

小学生の頃、寝る時間になっても読書していたくて、懐中電灯を手に布団の中でこっそり読書をし、しょっちゅう母に怒られていました。

父の転勤で2年ごとに小学校を転校していました。
慣れたと思ったら引っ越しするので別れが辛くて、友達と深く仲良くなることが苦手に。
休み時間も読書をしておはなしの世界にどっぷり浸かりました。

「ちいさいモモちゃん」シリーズが全巻揃っていたり、「岩波少年文庫」が買いそろえてあったりする友達の家に行くと、友達と一緒に遊ばずに読書に没頭してしまいます。
部屋で友達とふたり、それぞれでひたすら読書して「もう帰る時間だ。またね」と、ほとんど会話すらせずに帰宅することもよくありました。

20時就寝を厳しくしつけられていましたが、4年生にもなると「まだ寝たくないな」という気持ちが強くなって、寝たふりをして布団のなかで懐中電灯で照らしながら読書し、母に「もう本を読むのをやめなさい!」とよく怒られました。
「もっと本を読みなさい」と親に言われている友達は多かったですが、「本を読むな」と親に怒られる子は珍しかったのではないでしょうか。

ねんねの赤ちゃんから絵本をたのしめる

左/字は読めないけれど3歳の息子が0歳の娘によみきかせ。 右/ねんねの娘に合わせて寝転んで、パパによみきかせしてもらっています。

0歳児健診などの機会に自治体が絵本をプレゼントする「ブックスタート」の取り組みも定着し、絵本の読み聞かせについては前向きな捉え方をする人がほとんどでしょう。
『ぐりとぐら』、『おおきなかぶ』など、数々の名作に関わった編集者として有名な、福音館書店の松居直さんは、
「絵本は、大人が子どもに読んであげる本。子どもにとっては、耳で聞く言葉、目で行う読書です」と仰っています(『絵本とは何か』日本エディタースクール出版部 / ちくま文庫より)。

文字が読めなくても、赤ちゃんは目で絵を読むとも言われます。
言葉を獲得する時期に、リズムのよいことばの繰り返しや短い単語などの絵本を大人が子どもに直接読み、語りかけることが子どもの語彙力に影響を及ぼすという研究もあります。
たとえば「おひめさま」「むしゃむしゃ」など実生活ではあまり使わない言葉に触れることができるのが、絵本やおはなしの世界です。

ねんねの頃の赤ちゃんに絵本を読むときは、大人が一緒に横になって絵本を持ち上げて読んでもいいと思います。
赤ちゃんが次々とページをめくりたがって、きちんとお話を聞けないときは、ボードブックなど厚みのある絵本を選んで、おはなしよりもめくることを楽しむのもいいと思います。
子どもの発達や興味に合わせて大人が工夫をしながら、「きちんと読む」ことに大人自身がが縛られず「おはなしを楽しむ」ことを重視すると、子どもは自然と「本を読むことは楽しいことだ」と感じられるようになるのではないでしょうか。

文字が読めるようになっても、よみきかせを続けた理由

息子も娘も本の虫。今度は私が子どもたちに「本を読むのはやめて寝なさい!」というはめになりました。

おひさまや店頭の本棚で季節の絵本を選んでいたお客様が、
「もう1年生なのに、まだ絵本を読んでと言ってくるんです」と困り顔でした。
自分で読んだ方が国語力も上がるのでは?と絵本でなく児童書にレベルアップすべきでは?とお悩みのようです。
私は強く「絵本を読んであげてください!」とお伝えしました。

読み聞かせと自分での読書では、おはなしへの没入度に差がでると思うからです。
まだ文字を覚えたての頃は特に、文字を読むこと自体に一生懸命になりやすくて、文章を理解しておはなしの世界をイメージするところまでいけない場合があります。
大人に読んでもらうと、おはなしの言葉がすっと頭に入るので、想像したり感情移入したりしやすくなります。

文字が読める小学生以上になると「もう自分で読みなさい」と言いがちですが、読み聞かせと自分で読書することは楽しみの種類も違う気がします。
おはなしを親子で共有できるひとときは心地よいものです。

私は子どもが小学校6年生になるまで、寝る前の読み聞かせを続けました。
絵本でなく児童書になり、文庫本になり、詩集になり、少しずつ読むほうも大変になっていきましたが、目を閉じておはなしを聞く子どもたちの顔を見つめながら優しい声で本を読むひとときは、忘れられない思い出です。

一緒に図書館へ行き、本屋へ行き、本を読む。

左/中国の本屋さんにある日本の絵本コーナー。右/ベトナム語版「からすのぱんやさん」。海外に旅に出ると絵本を必ず買います。

毎週土曜日は家族で最寄りの図書館へ出かけて2時間ぐらい滞在するのが、わが家の週末のお決まりでした。
子ども達に「自分で持てる冊数だけ借りていい」と伝えました。

最大10冊まで借りることができるのですが、私や夫が3冊ぐらいしか借りないのを見ると、息子と娘で「お母さんの残りの3冊、ぼくが借りるね!」「お父さんの冊はわたしが借りるから!」と空き枠を奪い合っていました。返す期限を守ることや、自分で返しに行くことはマナーとして教えました。

家族で街に出たり旅先で本屋を見かけると、必ず立ち寄ります(あぁ、長くなるなと覚悟!)。
海外に行くときは必ず1冊か2冊、絵本を買います。
その国の子どもたちに人気の絵本を書店の方に教えてもらったり、日本の絵本の現地語版を見つけたら購入したり。同じ「からすのぱんやさん」の絵でも文字が全然違うことを、子どもたちは面白がっていました。

「本好きにするには」を読む前に

写真左は「アルケミスト」、写真右は「ブルーバックスシリーズ」の本。親子で読書の好みは違います。子どもの「好き」を否定せずにいたら、いつのまにか思いがけない分野の読書もするようになっていました。


中学生になり、読み聞かせはしなくなりました。息子と娘は図書館へ通い、本屋へ行き、常に読書をしています。
娘が「お母さん、これ面白かったよ」と渡してくれたのは、お年玉で購入した「アルケミスト」(パウロ・コエーリョ著)でした。

息子はブルーバックスシリーズに夢中で、よく私に薦めてくれましたが、理数系が苦手な私には楽しめず目次までしか読むことができず申し訳なかったけれど、子どもたちの興味関心がどこにあるのか、本を通じて知ることができました。

大学生になってからは、私が子どもたちに仕送りごはんを宅配便で送るときに、おすすめの本を一緒に送ることもありました。
逆に「部屋に置く場所がなくなったけど捨てたくないから置いといて」と、本がぎっしり詰まったダンボール箱が届くこともあります(ちゃっかり着払いで!)。

左右の木製人形/「本を運ぶ妖精」ドイツ・Björn Köhler工房。真ん中/木のおもちゃ・おひさまやの小さな本棚。

子育て本コーナーに立ち寄ると、本好きの子に育てることを目指す育児書がたくさん出版されています。
「1か月に百冊以上は読み聞かせしましょう」「小学生に読ませたい〇冊」などとノルマみたいなことをうたうものもあります。

果たして、子どもにとってそれは楽しい読書体験でしょうか?
「何冊読んだか」をカウントすることに夢中で、何を読んだかまるで覚えていないことはないですか?
「勉強ができる子を育てるために読書好きにする」という主張も、はて?と感じます。
私は文学史の教科書の年表の端から順に読書していったぐらいに本好きですが、偏差値が高くなることはありませんでした(がっかりさせてごめんなさい!)。

アインシュタインは「想像力は知識よりも重要だ。知識には限界があるが、想像力は世界を覆う。」と話していました(1929年の『サタデー・イブニング・ポスト』誌(The Saturday Evening Post)に掲載されたインタビュー記事より)。

同じ絵本を100回読んでもいいし、小学生で絵本を楽しんでもいい。
子どもが想像力を働かせ、お話の世界にどっぷりつかる、穏やかなひとときを親子で共有してみませんか。
日々が忙しくて読み聞かせをすることができなければ、図書館のお話し会やブックカフェに親子で出かけてみてください。本屋へ一緒に行って「お母さんが子どものころに読んだ絵本だよ」と子どもに伝えるのも楽しいですね。
電子ブックという新しいツールが登場して久しいですが、読書という楽しみは、これからもきっと変わりません。
子どもが大人になったとき、「このおはなしが好きだった」「あの時間が好きだった」と、親子で読み聞かせや読書を楽しんだ思い出は、親子の幸せな時間として振り返ることになるでしょう。

木のおもちゃ・おひさまや

住所:福岡県糟屋郡新宮町三代西1-9-10
電話:092-985-0540
営業:11:00〜16:00(定休日:月・火・水曜)
URL:https://www.instagram.com/ohisamaya

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プロフィール

坂本秀子(木のおもちゃ・おひさまや)のアバター
坂本秀子(木のおもちゃ・おひさまや)

福岡県糟屋郡新宮町にある「木のおもちゃ・おひさまや」店主。
ロングセラーの絵本、ドイツなどヨーロッパの木のおもちゃ・ボードゲームの専門店として店に立つ傍ら、行政主催の子育て講座や図書館でのボードゲーム会の講師として九州を飛び回っています。店は今年で20周年です!
Instagramアカウント @ohisamaya

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