愛別離苦。人生の中で経験する「愛する人との別れ」は避けることができない苦しみです。
木の香りいっぱい、カラフルなおもちゃに囲まれて、子どもたちが楽しそうに遊ぶ「木のおもちゃ・おひさまや」(福岡県新宮町)は幸せにあふれた空間です。でも、心の中に愛別離苦の悲しみを抱いて来店するお客様もいらっしゃいます…。今回は、「わかれる」がテーマです。

「最期の贈りものを選びたくて」
初めてご来店くださった女性のお客様でした。
「いつもインスタを見てますよ!」と笑顔でお越しくださいました。
カラフルな医療用帽子をかぶっていらしたので、闘病中かな、と感じました。
「甥っ子と姪っ子へのプレゼントを選びにきました」とおっしゃるので、
「おいくつのお子さんたちですか?」と尋ねると、思いがけない返事が返ってきました。
「7歳と3歳なんですけど…実は、もうすぐ私、ホスピスに入るんです。ずっと闘病してきて。
結婚してないし、子どももいないんだけど、妹の子どもたちが我が子みたいにかわいくて。
私から妹の子どもたちに、最期のプレゼントをしたくて来たんです」

忘れてもいいけど、思い出してほしい
店内を何周もしながら、贈り物を一緒に選ぶことになりました。
7歳と3歳の今、楽しいおもちゃっていうだけじゃないもの…。
一生そばに置いときたいと思えるステキなものがいいな…。
あまり繊細な工芸品だと3歳さんが触ってこわしてしまったら困るし…。
小さすぎたらどっかいっちゃうかも…などと一緒にお話ししながら、悩みながら探していました。
お客様がふと、
「…わたしのこと覚えといてほしいからって、おもちゃをあげるわけじゃなくて…」とつぶやくように言ったので
私はハイ、と相槌をしたのですが、なんだか小さな声になってしまいました。
「小さいし…私のことを忘れてもいい。仕方ないですよね。でもやっぱり、思い出してほしいなって」

ものより思い出、ということばがあるけれど
選び終えてラッピングをした頃には、お客様はかなりお疲れのご様子でした。
甥っ子さんと姪っ子さんに選んだ贈りものは、おひさまやから宅配便で送ってほしいとのことだったので、
レジのカウンターで小さなメッセージカードにお手紙をしたためていただき、同封することにしました。
「あぁ、すごくいいものを選べた」
お客様はとっても満足してくださったようすで、ホッとしました。
「一緒に選んでくださってありがとう! 物より思い出という言葉があるけど、私はもう思い出作れないから。いいものを選べてよかった」
満足いただけた半面、続いた切ない言葉を聞いて、胸がきゅっとしめつけられました。
「また来ます…と言いたいけど、もう無理かなぁ…。でも、インスタは見るので!これからも楽しい投稿を期待してます」
私は感動と寂しさでもう限界。今にも涙が出そうでした。
でも、笑顔のお客様がお店を出るまでは、絶対私が泣いちゃいけないと思いました。
猛烈にまばたきしながらこらえて、お客様が乗ったタクシーをバス通りまで出てお見送りました。

ペットロスで5キロやせた
私自身も辛い別れを何度か経験しました。
我が家で飼っていたミニレッキスのうさぎの男の子「ぴょんた」。
私も夫も3人きょうだいなので、子どもは3人欲しいねと話していたけれど恵まれず、
3番目の子として迎えた家族でした。でもわずか2歳半のときに心臓の病気で亡くなりました。
ピーターラビットのイラストを街中で見かけると涙が出る、
ショックで食事ができなくなり、私の体重は5キロ減(今はそこから15キロ太っていますのでご安心を)。
ペットロスです。
小学校低学年だった娘もショックを受け、
「私がぴょんたの世話をあんまりしなかったから早く死んだのかな」と自分を責めて涙を流していました。
これはどうしたら克服できるの?気持ちは落ちるばかり…。
新しいうさぎを迎えようともしましたが、どのうさぎもぴょんたほど可愛く見えませんでした。
そんなとき届いたカタログに、「ぴょんた」が載っていました。

ケーセンのぬいぐるみは、生きている
カタログに載っていた「ぴょんた」は、ケーセン社が作っているぬいぐるみです。
同社の全身であるケテ・クルーゼ社は人形作りの工房としてドイツでとても有名で、1912年に旧東ドイツ・チューリンゲン地方の町バートケーセンに生まれた老舗です。
木のおもちゃ・おひさまやのマスコットにしている太陽の指人形は、このケテ・クルーゼ社の製品です。

野生の動物をスケッチすることから始まる、ケーセンのぬいぐるみ作り。
たくさんの作業工程のほとんどは手作業で、ひとつの動物を作るために布地を20種類以上使うこともあります。

ケーセン社のぬいぐるみ哲学
ケーセン社は、しっかりした哲学を持ってぬいぐるみを製作していることでも知られています。
・やわらかく、動きがあって、子どもたちが自由に動かして遊べるもの
・縫製はしっかりした良質なものであること
・動物の顔は擬人化され、媚びるようなものではなく、子どもが感情移入できる自然さをもつこと
・気持ちよくほおずりができ、いつまでも型くずれしないこと
ちゃんとリアルだけど怖くないのが、ケーセン社のぬいぐるみです。
私は、ぴょんたによく似たケーセンのうさぎを我が家に迎え入れ、子どもたちや夫となでたり仏壇に飾ったりしました。
視界の片隅にぬいぐるみが入るとき、まるでぴょんたがいるように感じました。
我が家は少しずつ、悲しみから抜け出して心が癒されていくのを感じました。

おもちゃを通じたグリーフケア
突然の別れに悲しむ人が来店したとき、心から力になりたいと思います。
でも、私のことばや態度が傷つけたり苦しめたりすることがあってはならないので緊張します。
おひさまやは毎年、ラッピング代を子どものために活動する団体や施設におもちゃを寄贈する資金にしています。
以前、福岡で活動するグリーフケア団体の要望を受けて、おもちゃの寄贈を行いました。
お子さんをなくしたり、家族をなくしたりすることは準備ができない出来事です。
自分を責める、怒り、食欲を失う、やる気が出ないなど、色んな悲しみの反応が表れます。
夫婦や家族だけで我慢するのではなく、
集う場を開くなどサポートしてくれるグループがありますので、ぜひ一度、ホームページなどをご覧になってみてください。
木のおもちゃ・おひさまや
住所:福岡県糟屋郡新宮町三代西1-9-10
電話:092-985-0540
営業:11:00〜16:00(定休日:月・火・水曜)
URL:https://www.instagram.com/ohisamaya





