福岡の民話・伝説収集家であるチョコ太郎さんは、子どもの頃から不思議な体験を数多く見聞きしてきました。今回は、社会人になってから帰省した際、実家からの帰り道で迷い込んだ、ある山道にまつわる話です。
中秋の名月、下道を選んだ帰り道

社会人になって7年が経った秋の深夜、車で実家からの帰り道。翌日は休み、空には中秋の満月…ゆっくり帰ろうと高速道路ではなく下道を選んだ。
ほとんど車は走っておらず、ラジオで季節外れの怪談を聞きながら快適に走っていたが、どうもおかしい。
違和感の原因はすぐに分かった。久しぶりとはいえこれまで何度も通った道だから、間違えるはずはないのに、街には出ずにどんどん山の中に入っているのだ。
どうしようか少し迷ったが、方角は間違っていないから峠越えで帰るのもいいかと思い直し、そのまま進んだ。
古い鳥居を左に見ながら走った先の二又を左(家の方向)に曲がる。細い一本道をぐるぐると登る。登り切ると行き止まり…中学校の正門の前だった。
何度戻っても行き着く「あの中学校」

車から下り、近づいてみると「K中学校」とある。
こんな山の中に学校があるのか。生徒は大変だな…
「あそこで間違えたのか…」
来た道を引き返し、今度は二又を右に進んだ。しばらく下って行くと、途中から左回りに登りカーブが続いた。坂を上り切るとまた行き止まり。あの中学校の裏門だった。
キツネにつままれたような気分で来た道を戻った。問題の二又を越え、さらに車を走らせる。
やはりおかしい…来た時と風景が違う。
不安なまま進んで行くと道は細くなり、ぐるぐると登りになった。次の瞬間、嫌な予感は的中した。着いたのは最初と同じ、中学校の正門の前だったのだ。
背後に聞こえた足音と、祖母の出迎え

車から下り、月に照らされた校舎をなんとも言えない気持ちでしばらく見ていた。
そのとき、背後で数人の足音がした。振り返ったが誰もいない。
…そうか、今ここにいてはいけないんだ。
急いで車にとって返すと、真っすぐに来た道に戻ることだけを考えて進んだ。しばらく行くと鳥居が見えた。何がどうなったのかは分からないが、山を下ることができた。
あまりに不可解な出来事に一度落ち着いた方が良いと思い、実家に戻った。夜もかなり更けていたが、まるで戻ってくるのが分かっていたかのように祖母が迎え入れてくれた。
「そうだったんだね。お腹もすいたろう。良い肉があるから焼いてあげよう」
今夜出くわした怪異を告げると、何故か豚肉のソテーをご馳走してくれた。
豚肉のソテーと「ダリ」の正体
「ご馳走さま、おかげで落ち着いたよ。やっぱり高速道路で帰ろうかな」
「大丈夫、大丈夫。きっと下道も抜けられるはずだよ」
祖母が妙に進めるので再度下道を走ったが、今度は何事もなく自宅まで帰ることができた。
後日、K中学について調べてみたが、特に妙な噂話などはなかった。
あれは昔の伝承にある「ダリ」(ひだる神:取り付かれると急激な空腹に襲われ動けなくなる)の類だったのではないだろうか?
それとも、車ぐるみのリングワンダリングだったのだろうか…。
今でも不思議に思う。これは、まだカーナビが普及する前の出来事である。
(ファンファン福岡公式ライター/チョコ太郎)
※本記事は、ファンファン福岡に掲載された公式ライター・チョコ太郎の連載「祖母が語った不思議な話」で過去掲載された記事を、再構成・再編集したものです。





