新・祖母が語った不思議な話:その陸拾玖(69)「忌地(いみち)」

明治生まれの祖母のちょっと怖くて不思議な思い出をまとめた連載「祖母が語った不思議な話」正続編終了時に、多くの方から続編を望まれる声をいただきました。御期待に応えた第3シリーズです。

イラスト:チョコ太郎(協力:猫チョコ製作所)

子どもの頃、校区の端に「近づいてはいけない場所」があった。
そこはところどころ破れたトタン壁に囲まれた空き地。
雑草と奇妙な形の木が生い茂るその場所に差し掛かると、赤ん坊が決まって激しく泣き出す。
散歩中の犬も尾を巻き込み、頑なに歩くのを拒む。
そんな光景を何度も目にした。
いつしかそこは「何かがいる、気味の悪い場所」として、噂の怪談スポットになっていた。

ある日の放課後、意を決して友人たち数人と「探検」に出かけた。
空き地の中に入ろうとしたそのとき山本君が溝に落ち、片脚をひどく擦りむいた。
「もう帰ろうよ」山本君がべそをかきながら言う。
その言葉に異を唱える者はいなかった。

時が経ち社会人になった僕はお盆休みに帰省した際に、あの不気味な空き地がどうなっているか気になって足を向けた。

「へえ、公園になったのか」
かつての陰気な面影は消え失せ、真新しい滑り台とブランコが設置され明るく生まれ変わっていた。
幼い子どもを連れた母親たちがベンチで談笑している。
犬を連れて散歩する人の姿もあった。
かつての怪談を知る身としては、拍子抜けするほど穏やかな光景だった。

しばらく眺めていて、違和感に気づいた。
よく見ると、子どもたちは公園の「ある一角」では遊んでいない。
散歩中の犬も、その方向を避けるように歩いている。

「よし!」

その場所に行ってみた。
植え込みの影、人目から隠れるようにそれはぽつんと立っていた。
コンクリートの土台の上に乗っていたのは、黒く変色した古い小さな石碑だった。

表面は摩耗がひどく、彫られた文字はなぜかところどころ削られていて何と書いてあるのか判別できない。
ただ、「見てはいけないもの」を見ているような気がして仕方がない。
目をそらすとその横でスズメが砂浴びをしている。
なんだ、のどかな…いや、違う! 同じ場所で円を描くようにのたうっているんだ。
とっさに救い上げると、スズメは逃げるように飛び去った。

「ぎゃああっ」
真後ろから引き付けを起こしたような赤ん坊の激しい泣き声が聞こえた。
鳥肌が立った。
振り向くと赤ん坊を抱え、足早に去っていくお母さんの後ろ姿。

風もないのに、石碑の周りの雑草だけがサワサワと音を立てる。
「ここにいてはいけない」…そんな気持ちがどんどん強くなり、振り返ることもせずにその場を立ち去った。

…………………………………………………………

「あの公園…昔はずっと空き地だったところだよね。元々は何だったの?」
家に戻って祖母に尋ねた。
「あそこには『六人塚』と呼ばれる小さな塚があったんだけど、古すぎてその由来は誰も知らなくてね。昭和40年代に入った頃、その塚を残しながらアパートが建ったんだけど数年で取り壊し。それからずっと空き地だったのは…知ってるね。一昨年、整地して公園になったんだけど、そのとき驚くほど大掛かりな地鎮祭をやったけど…あそこは忌地だね」

公園という名前で覆い隠しても、そこにいる「何か」は、今も変わっていないのだと確信した。

チョコ太郎より

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