バスから降りろと要求してくる男性。 赤ちゃんのママに向けて放たれる冷たい言葉に、バスの車内は一瞬で凍り付きました。 誰も何も言い返せない空気の中、その沈黙を破ったのは当時3歳だった息子でした。 思わず吹き出してしまう一言が車内の空気を変えた出来事です。
バスで靴を脱ぎだしたサラリーマン

乗り物好きの次男を連れて、ばぁばの家までバスでお出かけした日のことです。平日の昼下がり、車内には私たち親子の他に赤ちゃん連れのママ、そして数人の乗客しかいませんでした。
発車間際に乗り込んできた一人のサラリーマン。空いている席にドカッと腰を下ろすと、なんと彼は靴を脱いで足を組みだしたのです。混雑していないとはいえ、公共の場ではあまり気持ちの良い光景ではありませんでした。
赤ちゃん連れママが頭をさげた理由

バスが走り出してしばらくすると、赤ちゃんが泣きだしてしまいました。どうやらオムツが汚れてしまったようで、車内には少しだけニオイが漂っていました。ママは、周囲に気を使いながら申し訳なさそうに頭を下げていました。
「お互い様ですよ」そう言ってあげたかったけれど、誰も何も言わず、車内は気まずい空気が流れていました。その静寂を破ったのは、当時2歳の息子の無邪気な声でした。
「赤ちゃん、うんちしたね」
まるで、お兄ちゃんになったかのような誇らしげな顔。赤ちゃんのママに教えてあげたかったのでしょう。私は慌てて息子の口元をおさえましたが、その一言がきっかけで車内の空気がふっと緩んだのです。
「少し窓を開けましょうか」
赤ちゃんのママに声をかけると、自然に周囲の乗客も協力してくれました。赤ちゃんだし仕方ないよ。そんな優しさが車内に広がり、私もほっとしていました。
ところが次の瞬間、それまで黙っていたサラリーマン男性が口を開いたのです。
「迷惑でしょ」車内を凍らせた暴言
「臭いから降りれば…」
スマホを見たまま、その男性は聞こえるか聞こえないかの声で呟いたのです。思わず「え?」と耳を疑いました。聞き間違いであってほしい。そう思った瞬間、
「だから、次で降りれば?迷惑でしょ」
と、今度は誰にでも聞こえる声ではっきりと言い放ったのです。
さらに、「子どもだからって許される雰囲気作ってんなよ」と捨て台詞まで。
赤ちゃんのママは何も言い返せず頭を下げるばかり。私たち乗客も驚きながら、その場で固まってしまいました。車内の空気は一瞬で凍り付いたのです。
そんな重たい沈黙を破ったのは、大人ではありませんでした。たった3歳の息子だったのです。
「おじさんのあんよも...」車内に響いた息子の声

重たい沈黙の中、息子は不思議そうにな顔で私を見上げました。
「ママ~?おじさんのあんよ、赤ちゃん?」突拍子もない質問に戸惑う私。
そして、
「おじさんのあんよ、くさいね~」息子は、赤ちゃんに向かってニコニコしながら言ったのです。
赤ちゃんのうんちのニオイと靴を脱いだサラリーマンの足のニオイ。息子の中では同じ「くさい」だったのでしょう。私は我慢ができず吹き出してしまい、赤ちゃんのママも思わず笑っていました。
先程までの重苦しい空気がふっと軽くなったと同時に、サラリーマン男性の先程までの威勢はどこへやら。気まずそうに靴を履きなおし、次の停留所で降りていきました。
赤ちゃんのママからの「ありがとう」にあまりよく分かっていない様子の息子でしたが、小さな背中がその日だけは少しだけ大きく見えました。
子どもの言葉は時に残酷ですが、大人が言えない本音をまっすぐに伝えてくることがあります。あの日の車内を救ったのは、空気も立場も読まない3歳児のあまりに素直な一言でした。
子育て中は周囲に迷惑をかけてしまうこともあります。でも、子どもの率直な発言で救われることもあるのだと感じた出来事でした。
(ファンファン福岡公式ライター/すぅ)





