ある日の午前中、私は3歳の娘の咳が続くので小児科に来ていました。私と娘は受付近くの席に並んで座り、小さい声でおしゃべりしながら呼ばれるのを待っていました。そのときに聞こえたあるママの一言に衝撃を受けた体験談です。
激混みの病院

その病院は小児科と内科があり、いつも混んでいます。泣き声や話し声が混ざりあう中、少し離れた席から、子どもの泣き声が聞こえました。2~3歳くらいの男の子が、もう限界というぐずり方をしています。
体調もしんどいのでしょう。飽きたし、眠いし、じっとしていたくないし、わけがわからない。そんな全部が混ざったような泣き声でした。
ママさんは必死にあやしていました。しかし、スマホもお茶もお菓子も、すべてダメ。小声で「もうちょっと」「がんばろう」と言っていますが、子どもは首を振って泣き続けていました。
誰も何も言いません。しかし待合室の空気は何となく重くなりました。視線だけが自然と親子に集まっていきます。
困り果てたママの一言

そのとき、ママさんがため息交じりに言いました。
「…誰かが順番を代わってくれない限り無理よ…」そう言ってちらり。そして、もう一度ちらり。周囲に視線をやります。
一瞬空気がピリッとした気がしました。そう広くない待合室です。聞こえてしまった人も多かったのだと思います。
私も思わず顔を上げ、戸惑いました。子どもが泣いている状況が大変なのは、とても分かります。病院の待ち時間は大人でもきついです。体調不良の子どもがいれば、本当に心身を消耗します。
けれど、その言葉を聞いてしまった私たちはどう反応すればいいのでしょう。みんなそれぞれ理由があって病院にいます。急いでいる人もいれば、体調が悪いのに頑張っている人もいるのです。
「変わってあげたくない」わけではありません。ただ、その空気に変な圧力を感じてしまいました。
見わたせば、スマホを見る人、聞こえていないふりをしているような人、目をそらす人…。誰も動く気配がありません。するとそのママさんが受付に歩いていきました。
そして小声で、「あの、順番って受付順ですか?」と聞いています。「内容で前後することはあります」と言われると、
「あの、うちの子が早くなることはないですか?〇〇眼科は、小さい子ども連れは優先してくれるんですけど」聞いていました。
受付の方は申し訳なさそうに「小児科ですので、小さいお子さんも多いので…。車で待っていることもできますよ」と答えたときでした。
動いた年配女性

すぐそばにいた年配の女性が近づいて、言ったのです。
「薬だけだから、私と順番を入れ替えてあげて」
思わず心の中で「え」っとつぶやいてしまいました。
ママさんは待ってましたと言わんばかりのテンションで、「え、いいんですか!?ありがとうございます!」と笑顔。年配の女性は穏やかに笑っています。自然と受付に集まる待合室の視線。
結局受付の人もそれを了承し、私たちよりも後から来たそのママさんは、私たちよりも先に診察室へ呼ばれて行きました。私は心の中で思いました「言ったもん勝ちじゃん」と。
年配女性の対応で、その場の雰囲気は丸く収まりました。けれど、私は正直モヤモヤが晴れませんでした。子どもにぐずられると本当に大変なのは分かります。「早く呼ばれないかな」「順番変わってほしい!」と思ってしまうのは痛いほど分かります。
ただ「誰かが順番変わってくれない限り無理」と言いながら周囲を見渡す。これはもう独り言の域を出ているし、「助けてほしい」と「周囲に圧をかける」は、少し違う気がしました。
順番を譲った年配の女性は立派だったと思います。ママさんの要求に応じなかった人たちも、悪い人というわけではありません。なのになぜか待合室の空気はとても重く感じました。ママさんにも悪気はなかったのかもしれません。心の余裕がない日もあります。それでも周囲にいた側としては、何とも言えない疲労感が残る出来事でした。
(ファンファン福岡公式ライター/K)





