「静かな時ほど子どもは何をしているかわからない」…子育て中、そう感じたことがある人もいるのではないでしょうか。その日、脱衣所から聞こえる不自然なヒソヒソ声に嫌な予感がしていました。そして様子を見に行くと、そこには“カッコよく仕上げられた息子”が立っていて…。
静かな脱衣所

その日は、子どもたちと3人でお風呂に入っていました。子どもたちは湯船の中でパシャパシャ遊びながら、「まだ出なーい!」と楽しそうに笑っているので、私は先に出ることに。
「ちゃんと拭いて、パジャマ着てきてね」と声をかけ、そのままキッチンへ向かいました。
翌日のお弁当の下準備をしながら、私はなんとなく脱衣所のほうへ耳を傾けます。すると、お風呂から出た子どもたちの話し声が聞こえてきました。
ただ、少し様子が違ったのです。いつもなら大きな声でふざけ合うのに、その日は妙にひそひそ声。それなのに、テンションだけは高い。
「何してるの?」と声をかけると、娘が弾んだ声で返しました。
「弟くんを、カッコよくしてあげてるの」
…嫌な予感しかしません。
不自然な“ツヤ感”

小1の娘と、年中の息子。普段はおもちゃの取り合いや口げんかも多いのですが、その日はなぜか結束が固そうでした。気になりつつも、そのままお弁当の準備を続けます。
ところが、なかなか2人が出てきません。
「…長いな」
ふと手を止め、脱衣所をのぞきに行った瞬間、「あ!」と声が出ました。
息子の髪が、妙にしっとりしていたのです。もう乾いていてもおかしくない時間なのに、前髪は束になり、横髪までテカテカ。どう見ても、何かをつけた質感です。
「頭、濡らした?」と聞くと、息子はニコニコしながら首を振りました。
すると娘が、得意げな顔で前に出てきたのです。
「コレだよ!」
姉による“ヘアセット”

娘が差し出してきたのは、一本のスプレーでした。
それは、「特別な日用」と決めていた“チョットいい”ヘアトリートメントミスト。美容師の友人からプレゼントされた、お気に入りのアイテムです。
しかも、ボトルは見てわかるほど軽くなっていました。
「えぇぇぇ…」思わず力なく声が漏れます。
娘はまったく悪びれる様子もなく、「サラサラになるかなって思って」と嬉しそう。息子も鏡を見ながら、「オレ、カッコいい?」とかなり満足げでした。
いや、これはもう“サラサラ”ではない。どちらかというと、“しっとりを通り越した重ためスタイル”です。
でも、2人とも本気で成功したと確信している顔でした。
その表情を見た瞬間、「勝手に使わないで!」と言いかけた言葉を、私は飲み込んでしまったのです。悪気がないなら…。

子どもに悪気はありません。娘なりに、「弟をカッコよくしてあげたい」と思ったのでしょう。そして息子も、姉の“プロデュース”を疑いもせず受け入れていました。結果として減ったのは、トリートメントの残量だけ。
姉弟の満足度は、過去最高だったようです。
ミストのフタを閉めながら、少し考えました。子どもたちにとっては、ただ楽しかった時間。でも私にとっては、少しだけ惜しい出来事です。
その夜は、強く叱るでもなく、長々と説明するでもなく、心の中で「次からは置き場所を変えよう」と決めました。それが、その日の私なりの折り合いでした。
(ファンファン福岡公式ライター/大空 琉菜)





