娘が小学生になった頃、近所に住む同級生の男の子2人と仲良くなりました。家が近いこともあり、学校が終わってから遊んだり、休日に待ち合わせたり。親同士もすっかり顔なじみになり、ママ3人、子ども3人で公園へ行くことも増えていました。
公園を自転車で走り回る子どもたち

その日も、子どもたちは自転車に乗って近所の公園へ。広い園内の周回コースを走る3人を眺めながら、私たち親はベンチに座っておしゃべりしていました。
途中、Aくんのママが忘れ物に気づき、「ちょっと家に戻ってくるね」と、いったん帰宅することに。その場には私とBくんのママが残り、子どもたちは相変わらず自転車で楽しそうに走っています。
いつも通りの穏やかな時間…のはずでした。ふと見ると、Aくんが娘のすぐ後ろを走っています。
最初は「一緒に走っているのかな」と気にも留めませんでした。しかし、見ているうちに2台のスピードがどんどん上がっていきます。
「スピード出しすぎだよー」
少し大きな声で呼びかけた、その直後でした。
「追いかけないで! Aくんやめてー!」
娘の絶叫が公園に響きました。
止まらない自転車

娘は何度も後ろを振り返りながら、必死にペダルをこいでいます。しかし、Aくんも負けじと加速。
「逃げるなー!」
いやいや、完全に追いかけっこになってる!2人が乗っているのは自転車。かけっことはわけが違います。
娘は後ろばかり気にして、前をきちんと見ていません。カーブの先には小さな子ども。すぐそばには砂場の縁石もあります。
転んだら? 誰かにぶつかったら?
さっきまでの、のんびりした気分は一瞬で吹き飛び、血の気が引きました。
「Aくん、危ない! ストップ、ストップ!」
私は声を張り上げて呼びかけますが、追いかけっこに夢中のAくんには届きません。
娘にも「止まって!」と叫びたい。でも、後ろから迫られて怖がっている娘に止まれと言っていいのか、一瞬迷ってしまいました。
走って止める?いや、自転車には追いつけない!頭の中だけが忙しく、私はその場でオロオロ。
そのときでした。
立ち上がるママ友

隣にいたBくんママが突然、スッと立ち上がりました。そして迷う様子もなく、娘の進行方向へ先回りします。
「えっ!? 危ない!」
その姿を見た私は思わず体がこわばりました。ところが娘は、進行方向に立つママ友の姿に気づくとキュッ!とブレーキをかけ、半泣きのまま停止。
すると、それまで猛スピードで距離を詰めていたAくんも減速し、そのままブレーキをかけたのです。そして次の瞬間…自転車を乗り捨て、何事もなかったかのように砂場へダッシュ。
「…え?」
つい数秒前までの暴走は何だったの!?
あまりの切り替えの早さに、私はしばし呆然。ようやく「よかった…」と息を吐くと、全身から一気に力が抜けました。
逃げるから追いかける
するとママ友が、まだ半泣きでその場で放心していた娘に、
「怖かったね。でも、逃げるから追いかけるんだよ」と静かに声をかけました。
私はその言葉にハッとしました。私はずっと「Aくんを制止しなきゃ!」と、そればかり考えていました。でも彼女が止めたのは、逃げている娘のほうでした。
娘がブレーキをかけた瞬間、追う相手を失ったAくんもスピードを落とし、あれほど危なかった追いかけっこがあっけなく終了したのです。
「なるほど、そっちだったのか…」
必死に叫ぶことしかできなかった私に対し、状況を見てとっさに動いたママ友。
走ってくる自転車の前に出るのは、簡単にできることではありません。すぐに動いて娘を止めてくれたことには、今でも感謝しています。
あのヒヤヒヤした数十秒を思い出すたび、何事もなく終わって本当によかったと胸をなで下ろすと同時に、迷わず動いてくれた彼女の姿が今も目に浮かびます。
(ファンファン福岡公式ライター/大空 琉菜)





