通勤で満員電車に毎日揺られている私。長い間続けていると「え!今それする?!」と車内で驚くような行動をとる人を見かける経験も増えてきました。今日は、そんな話の中から車内で化粧を始めた女性とその横にいたおばあちゃんのお話です。
ルール無視のドア横確保に車内は不穏な空気に

4月も3週目に入り、新入社員や新入生も新しい生活に慣れ始めたと思われる時期でした。その日もいつも通り車内は満員で、それぞれ立ち位置をキープすることに四苦八苦する混み具合でした。この電車は途中にある某大学の名前がついた駅で学生さんが降りるので、一気にお客さんが入れ替わるのですが、その際にいつもいわゆる「ドア横キープ争い」が起こるのが通例です。
その日の勝者は、30代と思しき女性。ドア横が空いた瞬間に降客の流れを無視してグイグイと推し進む様に、近くにいた人々は顔を曇らせていました。ドア横に着くとバッグをゴソゴソとあさり、しばらく何かを探すしぐさを見せていました。
化粧をはじめた女性に困惑と失望に包まれる車内

すると、「パカッ」という音と共にファンデーションを塗り始めたのです。この行為に誰もが肩を落とし、車内は「あぁー、はぁぁ」と音のない落胆のため息に包まれたような気がしました。
もちろん当の本人には周りのそんな様子は伝わるはずがありません。小さな鏡を凝視して必死に顔を作っています。アイラインを引き出したころには、「揺れる車内でよくできるな」と感心してしまいました。
化粧の手を止めさせたのは、一人のおばあちゃん

「お化粧は降りてからできないかしら」
その声に体をこわばらせたのは私だけではないでしょう。おそるおそるそちらに目をやると、一人のおばあちゃんがドア横に陣取る女性に話しかけていました。
急に声をかけられて手を空中に止めたままの女性におばあちゃんは語り始めました。
「わたしは後悔していることがあるの。もう30年も前のことだけれど、夫が背広にファンデーションをつけて帰ってきたのよ。『あー、これは浮気の証拠だな』って思ってね、問い詰めたんだけど、否定するの。だって、そんなウソ信じられると思う?肩や首まわり、それに髪にも匂いがついていてね。素直に認めて謝ったら許すことも考えたけど、もう激怒してね、そのまま離婚したのよね。」
私は化粧をしていた女性が怒り始めるのではないかとハラハラしていましたが、気にせず話を続けていきます。
「でもね、今日のあなたを見て夫は本当に浮気をしていなかったのかもって思ったわ。あの人、離婚してからも10年も私に復縁を求めてきたから。夫を信じることができなかったから、私は今も寂しい思いをしているのかもね」
おばあちゃんが言い終わったときにスッと一筋の涙を流したのを私は見逃しませんでした。
ドア横の女性はといえば、苦々しい顔をしながら化粧ポーチをしまい、次の駅で降りていきました。彼女に自分の行為が他人に与える影響や印象を推し量る正常な心があることを願うばかりです。
(ファンファン福岡公式ライター/ルンルン)





