小学校1年生だった私は、妹に付き添って新幹線のトイレに行きました。トイレのドアの隙間から視線を感じ、外を見ると見知らぬ男性が立っていました。男性は無言でこちらをじっと見つめています。大人になった今、改めて思い返しても背筋が凍るような出来事でした。
妹に付き添い新幹線のトイレへ

小学校1年生の頃、父と妹と一緒に新幹線に乗っていたときのことです。
年末の帰省ラッシュで車内は混雑していました。しばらくして妹が
「トイレに行きたい」と言ったため、私が付き添うことになりました。
妹は一人でトイレに入るのを怖がっていたので、私も一緒に中に入って、妹が用を足すのを待っていました。
妹が嫌がらないように、個室のドアを少し開けていました。すると、ドアの隙間から、誰かの視線を感じたのです。
気になって外を見ると、そこには40〜50代くらいの男性が立っていました。全身黒い服を着ていて、ぎょろっとした目で、こちらをじっと見つめています。男性は笑うわけでも、何か話しかけてくるわけでもありません。ただ、真顔のままドアの隙間からこちらを見ていました。
男性の異様な行動

男性はトイレの個室のすぐ目の前に立ち、無言で手招きをし始めました。目線はまったく逸れません。瞬きすらしていないのではないかと思うほど、ドアの隙間から私たちをじっと見つめています。
最初は「何か用事があるのかな?」と思いました。でも、その異様な雰囲気に、次第に強い恐怖を感じるようになりました。
小学校1年生だった私にも、「この人についていっちゃいけない」という危機感ははっきりとありました。私は怖くてたまりませんでしたが、隣にいる妹は何が起きているのか気づいていません。
妹を怖がらせてはいけないと思い、私は必死に首を横に振って、男性の手招きを断り続けました。それでも男性は、真顔でこちらを見つめながら手招きをやめません。
様子を見に来た父
「どうすればいいの。このままトイレから出たほうがいいのかな」
そんなことを考えていたとき、遠くから父の声が聞こえました。
「大丈夫か?」
私たちがなかなか戻ってこないことを心配して、父が様子を見に来たのです。父の姿が見えた瞬間、「ああ、よかった」と心から安心し、私たちは個室から出ました。
それまで個室の前にいた男性は、まるで何事もなかったかのように、素早くその場を離れていました。あれほど強い存在感で私を見つめていたのに、父の声が聞こえた途端、空気のように存在感を消して去っていったのです。
私は父に男性のことを話し、怖い思いをしたことを伝えました。しかし、小学1年生だった私の説明では、うまく状況が伝わらなかったのでしょう。その後、父が男性を探したり、駅員さんに報告したりすることはありませんでした。
もしあのとき父が来なかったら

もし、あのまま父が来なかったら。もし、私が男性の手招きについて行っていたら…。今頃、私と妹はどうなっていたのだろうと思うと、今でも背筋が凍ります。
あの男性が何を考えていたのか、私には分かりません。それでも、当時の私が感じた「この人についていってはいけない」という危機感は、今振り返っても間違っていなかったと思います。
どれだけ大丈夫だと思っていても、小さな子どもだけで行動させることには危険があります。自分が親になった今は、安全だと思われるような場所でも子どもから目を離さないように気を付けるようにしています。
(ファンファン福岡公式ライター/藤瀬りか)





