図書館で娘がそっと古い絵本を選んだ日、私の言葉が子どもの心にどんな形で届いていたのか気づかされました。言葉の伝え方を見直すきっかけになった、静かな午後のお話です。
幼稚園帰りに立ち寄った図書館で

保育園の降園後、娘と地域の図書館に向かった日のこと。娘はお気に入りの絵本コーナーへ走っていき、私は席に荷物を置いてその様子を見守りました。
しばらくすると、図書館のスタッフさんが「新しい絵本が入りましたよ」と声をかけてくれました。周りの子どもたちが嬉しそうに手を伸ばす中、娘だけは一歩引いて、棚の端に置かれた古い絵本を選びました。
「こっちのほうがいいの?」と尋ねても、小さくうなずくだけ。新品の絵本を勧めても、娘は頑なに手を伸ばそうとしません。
新しい絵本に手を伸ばさない理由は?
理由を尋ねると、娘はぽつりとこう言いました。
「新しいのは、ほかの子が読むやつだから」
その瞬間、私はハッとしました。普段から「みんなで使うものは大事にしようね」「順番を守ろうね」と伝えていた言葉が、娘にとっては“自分は遠慮しておくべき”という意味に変換されていたのです。私の言葉が、娘の選択肢を狭めていたのだと気づき、胸がきゅっと締めつけられました。
スタッフの一言が空気を変える

その様子を見ていたスタッフさんが、優しく声をかけてくれました。
「新しい本も、古い本も、みんなで読むためにあるんだよ。好きなのを選んでいいんだよ」
その言葉に娘の表情がふっと緩み、ようやく新しい絵本を手に取ってくれました。私はその姿を見て、娘の“遠慮の仕方”が私の言葉から生まれていたことを痛感しました。
子育ての言葉を見直すきっかけに

娘の“古い絵本を選ぶ”という小さな行動は、今では笑い話です。けれど、言葉の伝え方ひとつで子どもの行動が大きく変わること、そして誤解は対話でほどけることを、あの日の出来事は教えてくれました。
あの出来事以来、私は“遠慮”と“思いやり”の違いを、具体的な場面で説明するようにしています。
「順番を守るのは大事だけど、欲しいものは言っていいんだよ」
そんな言葉を繰り返すうちに、娘の選び方も少しずつ変わってきました。
子育ては、思いがけないところで自分の癖や価値観を映し出します。失敗も戸惑いも、親子で成長するための材料になる。あの日の図書館での出来事は、そんなことを静かに教えてくれた午後でした。
(ファンファン福岡公式ライター/にせゆみ)





