新・祖母が語った不思議な話:その捌拾肆(84)「むじなっ子・化けくらべ」

明治生まれの祖母のちょっと怖くて不思議な思い出をまとめた連載「祖母が語った不思議な話」正続編終了時に、多くの方から続編を望まれる声をいただきました。御期待に応えた第3シリーズです。

イラスト:チョコ太郎(協力:猫チョコ製作所)

昔々、ある山の麓に一匹のむじなの子と村人とが仲良く暮らす村がありました。
ある年の夏の終わり、その村を揺るがす大事件が起こりました。
大発生したネズミの集団が隣村の畑を荒らしつくし、村に向かってきたのです。

このままだと作物が全部やられてしまう…
むじなっ子は村を救いたいと思いましたが狩りは大の苦手。
山の中を歩き回り思案にくれていると、意地悪ギツネがやってきました。

「よう、むじな! いつ見ても景気悪い顔だが、今日はとびっきりだな」
キツネはばかにしたような調子で言いました。
「ねえキツネさん、私と化け比べをしませんか? あなたが勝ったら、村の中にいつでも住める立派な祠を作って、毎日油揚げをご馳走します」
「ほう! で、お前が勝ったら?」
「もう私をばかにしないでほしいんです」
「よかろう。して、お題は?」
「龍…で。勝負は三日後の秋祭りの日、神社の境内にいる村の人たちをより驚かせた方の勝ちというのでいかがですか?」
「承知した!」

キツネはこの辺りで一番の化け上手。
化けるのが下手なむじなっ子に負けることなんてあるはずがないと、大喜びで勝負を引き受けました。

そして、豊穣を祈る秋祭りの日。
キツネはその技を存分に発揮し、空を覆うほど巨大な黄金の龍に化けて雷鳴とともに現れました。
村人たちは皆「 龍神様だ!」と空を拝みます。
一方、むじなっ子も一生懸命に化けましたが…その姿は龍というよりはカエル、しかも尻尾が出ています。
あっさり勝敗は決しました。

「あはは勝負にならんかったな。約束通り俺の祠を用意して毎日油揚げを奉納させろ! 金龍大稲荷様だ」
キツネは勝ち誇り、村の入口に建てられた祠に居座りました。
毎日供えられる油揚げを堪能し、気が向いたら龍の姿に化けて村人を脅かしたりとご機嫌で過ごしていました。

それから一月が経ったある日—

キツネが祠の前に座り、油揚げを頬張っているとむじなっ子がやってきました。
「なんだ? また化けくらべでもやるか?」キツネは笑いながら言いました。
「いえ、今日はお礼を言いにきました」
「うん? お礼?」
「はい。、本当に感謝しています。実はひと月前、この村がネズミの大群に狙われていたんです。なんとかしたかったのですが私は狩りが苦手…村を救うには、ネズミが恐れるキツネさんに村に住み着いてもらうしかないと化けくらべを持ちかけたんです」
「……えぇっ?」
「村の人たちもこの策に賛成し、祠を造り、油揚げを供えてくれました」

化けくらべで負けることはむじなっ子の計画通り、祠と油揚げは「ネズミから村を守らせるための用心棒代と詰所」だったのです。
キツネが村の入口にドッシリと陣取り、さらに時々「巨大な龍」に化け凄まじい威圧感を放ち続けているため、ネズミの集団は恐れをなして一匹残らず逃げ出したのでした。

「おかげでこの村は助かりました。これもキツネさんのおかげだと、皆感謝しています」
「……化かされたのはこっちだったのか! いや、参った参った、参りました!もうばかになんかしないよ」
キツネは頭をかきながら苦笑しました。
むじなっ子もにっこり。

二人の目の前にはたわわに実った稲穂が揺れていました。

チョコ太郎より

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