明治生まれの祖母のちょっと怖くて不思議な思い出をまとめた連載「祖母が語った不思議な話」正続編終了時に、多くの方から続編を望まれる声をいただきました。御期待に応えた第3シリーズです。
今回は幼稚園の頃に祖母から聞いた話を、昔話風に語ってみました。

昔々、ある山の麓の小さな村に一匹のむじなの子が住んでいました。
このむじなは悪さをするどころか、村の子どもたちが大好きで、人間に化けると毎日のように木登りをしたり川で魚をとったり一緒に遊んでいました。

ある秋のこと、そんな平和な村に恐ろしい影が忍び寄りました。
アブの化け物が村にやってきたのです。
托鉢僧に化けていたので村の人たちは誰も気がつきませんでしたが、むじなだけは化け物が子どもの血を吸おうと狙っていることに気付きました。
「このままではみんなが危ない。なんとかしないと!」
むじなは一生懸命、どうすれば良いかを考えました。

むじなは、立派な羽織袴の侍に化け、庄屋の家の戸を叩くと威厳たっぷりにこう命じました。
「隣国よりの客をもてなすゆえ、村中で餅をつき大きな酒樽に入れろ。日が沈む頃に使いをよこすから、その時刻に熱々のつきたてを広場に用意しておくのだ!」
庄屋は村中の糯米を集め、大人も子どもも総出でペッタンペッタンと餅をつき始めました。

村人たちが餅の準備に追われている間、むじなは足止めするため、人間の子どもの姿になり村はずれの庵にいるアブが化けた僧の前に立ちはだかりました。
しかし、化け物は鼻をヒクヒクさせると、ニヤリと笑いました。
「ふん、子どもの姿をしていても誤魔化されんぞ。お前はむじなだろう!」
変化はあっさり見破られてしまいました。
アブの化け物は牙を剥き、襲いかかってきます。

「参りました、降参!降参! 命ばかりはお助けを!」
むじなは情けない声を上げてその場にへたり込み、震えながらすがりつきました。
「お詫びに、一番おいしい血を持った子どものところへ案内しますから!」
「ほう、おいしい血か。早く案内しろ」
「はい!居場所を確かめてすぐ戻ってきます」
むじなは村に向かって走って行きました。

むじながアブの化け物の元へ戻り、村の広場へ案内したのは、もう日暮れでした。
そこに置かれた大きな酒樽の縁に子どもが後ろ向きに座っています。
「ほら、あそこに座っている子ですよ」
「ヒッヒッヒ、これは美味そうだ!」
牛ほどもある正体を現したアブの化け物は、不気味な羽音を立てて空へ舞い上がると子どもに向かって襲いかかりました。
ところが、手応えがおかしいのです。
喰らい付いたのは柔らかい肉ではなく、カサカサとした藁の束!
村に出かけたむじなが田んぼから引っこ抜いた案山子をしつらえた罠でした。

「騙したな!!!!!!」
アブの化け物が振り向いた瞬間、むじなが背後から飛びかかりました。
化け物をしっかりと抱きかかえると、そのまま酒樽の中へと飛び込みました。
「グワッ!? なんだこれは!ぬ、抜けん!」
アブの化け物は大慌てで羽を動かそうとしましたが、時すでに遅し。
つきたての餅が大きな羽や足にべったりとまとわりつき、化け物はもう飛ぶことも暴れることもできなくなってしまいました。
しばらく踠(もが)いていましたが、その動きも長くはありませんでした。

騒ぎを聞きつけて村人たちが広場に駆けつけたとき、酒樽の中からようよう顔を出したのは餅だらけになり変化が解けた「むじな」でした。
(ああ、ついに正体がバレてしまった…気味悪がられて、もう子どもたちに遊んでもらえないや…)
むじなはしょんぼりと頭を垂れて縮こまりました。

ところが、聞こえてきたのは子どもたちの明るい笑い声。
「なんだ、やっぱり『むじなっ子』じゃないか!」
むじなが驚いて顔を上げると、子どもたちが笑いながら駆け寄ってきました。
「そんなの、最初からみんな知ってたよ! だって遊びに夢中になったら、いっつも尻尾や耳が出てるから」
「だからみんな、こっそり『むじなっ子』って呼んでたんだよ」
庄屋も笑いながら言います。
「お侍のフリをしてるときも、尻尾がフリフリ揺れてござったよ」
大人たちもむじなと知っていて手伝ってくれたのでした。
むじなが照れくさそうにしっぽを振ると、みんなの笑い声が宵闇に響き渡りました。
その後、むじなは変わることなく「むじなっ子」として子供たちと一緒に走り回り、村のみんなと仲良く暮らしたということです。






チョコ太郎より
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