妊娠中は、自分だけでなく家族の生活にもさまざまな変化が起こりますよね。そんなとき、パートナーは何を「大変だった」と感じるのでしょうか。今回は、妊娠中だった筆者が、夫の友人から聞いたある話に思わず耳を疑ったエピソードをご紹介します。
「地獄だった」って、そっち!?

夫の実家へ帰省したとき、学生時代からの親友・S君と食事へ行くことになりました。S君はかなりのヘビースモーカー。しかし、その日は妊娠中の私と一緒だったため、一度もタバコを吸いません。移動中の車内でも我慢している様子でした。
「タバコ、我慢させちゃってごめんね」
食事中にそう伝えると、S君は「全然!」と笑います。
そして、「うちの嫁も妊娠中、つわりがひどくてさ。あのときは地獄だったよ」と話し始めました。
私も「そうなんだ。大変だったね」と奥さんを心配しながら続きを聞いていました。
ところが、
「俺、家でタバコ吸えなかったんだよ。外に出なきゃいけないし、寒い中ベランダだよ? 本当にきつかった」
(…え?)
どうやら「地獄だった」のは、奥さんではなくS君自身のことだったようです。
米を持つのは誰か

少し引いてしまった私をよそに、S君の“苦労話”はまだ終わりません。
「妊婦は、重たいもの持っちゃダメとか言うじゃん?」
「う、うん」
「だからスーパー行くたびに、米持たされたんだよ」
あまりにも深刻そうに言うので、私は一瞬返す言葉に詰まりました。
(いや、それくらい普通に持つのでは…?)
もちろん、これまでやっていなかったことが増えれば、負担に感じることもあるでしょう。
しかし、「つわりで妻がつらい思いをしていた」という内容から始まったはずなのに、出てくるのは「タバコを我慢した」「米を持った」と、自分のことばかり。
私の中で、最初に覚えた小さな引っかかりが、どんどん大きくなっていきました。
つわりのせいで「俺がかわいそう」?

そして、極めつきは夕飯のエピソードでした。
「嫁が具合悪いからって、夕飯も作ってくれない日があってさ」
てっきり「だから俺が自分と嫁の分を作った」と続くのかと思った私。
しかし、
「しょうがないから、俺、自分でカップラーメン作ったからね!」
得意げに話すS君を前に、今度こそ絶句しました。
(いやいや、奥さんは具合が悪いんだよね!?)
妻の体調を心配したり、食べられそうなものを用意したという話ではなく、「夕飯を作ってもらえなかった自分」の不満を訴えるS君。
タバコを吸えなかった。米を持たされた。夕飯を作ってもらえなかった。
聞けば聞くほど、つわりで苦しむ奥さんよりも、「自分が苦労した」と言っていることがよくわかりました。
数年後、突然聞いた知らせ
帰宅後、私は夫に「あれ、ちょっとびっくりしたんだけど…」と話しました。夫にとっては昔からの友人ですが、私にはS君の発言が強烈に残ったのです。夫も苦笑いをしていました。
それから数年後。夫から、「S、離婚したらしい」と聞かされました。詳しい理由は分かりません。当然、あの日の発言と離婚に関係があったのかどうか、私には知る由もありません。
ただ、その知らせを聞いた瞬間、私の頭に浮かんだのは、寒いベランダや重たい米、そしてカップラーメンについて熱弁していたS君の姿でした。
あの日を思い返すと、つらい状況でも自分の苦労ばかりを口にするS君に、奥さんも寂しさを感じることがあったのではないかと考えてしまいました。
夫にはとても言えませんでしたが、「奥さん、いろいろ大変だったんだろうな…」と、妙に納得したのも事実です。数年前に抱いた強烈な違和感が、思わぬ形でよみがえった瞬間でした。
(ファンファン福岡公式ライター/大空 琉菜)





