Re:祖母が語った不思議な話・その肆拾漆(47)「杣人の話・下がる」

私が小さい頃、明治生まれの祖母はちょっと怖くて不思議な話をたくさん聞かせてくれました。祖母の思い出とともに少しずつアップしていきます。
※「祖母が語った不思議な話」シリーズは現在も連載中ですが、サーバー変更にともない初期の話が消えてしまったので、再アップしていきます。

「前に聞いたそまびとさんの話、ほかにない?」
「たくさんあるよ。それでは一つ」
そう言うと祖母は語りだした。

……………………………………………………

【杣人・水丸の話】

雲一つなく晴れた六月、杣人の水丸さんは家から少し離れた山に仕事に出かけた。
いつもの慣れた山道を歩いていると、向こうから初老の山伏が降りて来た。

「いい天気ですなぁ」
声をかけると山伏は立ち止まり水丸さんの顔をしげしげと見、いきなり大声で九字を切った。
「臨・兵・闘・者・皆・陣・烈・在・前!」

驚いていると、さらに真っ黒な丸薬を飲めと言う。
その勢いに水丸さんは言われるがまま薬を飲み下した。
とてつもなく苦い!
訳を聞こうとしたときにはもう山伏の後ろ姿は小さくなっていた。

気を取り直して山道を進んで行ったが、突然刺すような腹痛に襲われた。
「さっきの薬か?」
あまりの痛さに這うようにして、なんとか山小屋にたどり着いた。
そこには先客がいた。四十がらみの赤ら顔の炭売りだった。

「山道の途中でえらく綺麗な女に会いましてなぁ。なんとなくついていくとこの小屋に入ったので、儂も後を追ったんじゃが女はどこにもおらん。なんとも不思議なことですわ」
男はあれこれと話しかけてきたが水丸さんはそれどころではなく、横になってじっと目をつぶっていた。

うとうとしていると、外から細い女の声がした。
「もし、どなたかおられませんか?おられませんか?」
「おぉあんたか!おるぞおるぞ!」
炭売りはそう答えると扉を開け、女を招き入れた。綺麗な女だな…と水丸さんはぼんやり思ったが、そこで意識が遠のいた。

目を覚ますとすっかりあたりは真っ暗。
小屋には誰もおらず、売り物の炭は置きっぱなし。
とうとうその夜、炭売りは帰ってこなかった。

翌朝、ようやく体調が回復した水丸さんは小屋を出て仕事場の山に向かって出発した。
しばらく山道を歩いていると頭の上でばかにカラスが騒いでいる。
何だろうと見上げた。

「あの男だ…」

とても普通の人間が昇れない高い枝で炭売りが首を吊っていた。


……………………………………………………

「『あの薬を飲まされていなかったら…ぶら下がったのは俺だったかもしんねえ』
と水丸さんはそう締めくくったそうだよ」
「こわいね!」
「お父さんも私も不思議な話が大好きだったから、水丸さんが立ち寄る度にいろんな話聞いたよ。思い出したら、また話してあげようね」
「うん!」

チョコ太郎より

サーバーの変更で初期話が消えてしまったので、あらためて読めるようにアップしていきます。
また、「続、新・祖母が語った不思議な話」も連載中ですので、ご希望や感想、「こんな話が読みたい」「こんな妖怪の話が聞きたい」といった声をぜひお聞かせください。
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