ある日、スーバー銭湯で癇癪を起こし「家出する!」と大暴れして、脱衣所の外に飛び出そうとした5歳娘。母子ともに体はびしょ濡れ、裸のままです。どうすることもできない私は、「お願い、今だけはやめて」と娘を抱きしめながら、気付けば涙がこぼれ落ちていました。そんな私たちを救ってくれたのは…。
「スーバー銭湯」に行きたがる娘

その日、娘は習い事のあとで少し疲れている様子でした。
そんな中、「スーバー銭湯行きたい!」という娘。頑張ったご褒美にと、私はその願いを叶えることにしました。でも、この選択が間違いだったのかもしれません。
最近の娘は、疲れや空腹などがあると、些細なことで癇癪を起こし、「家出する!」と飛び出すのです。
風呂上りの逃げ場のないタイミングで…

お風呂上がり、脱衣所で髪を拭いていたときのこと。少し引っかかってしまったのか、「痛い!」と叫んだ瞬間、娘の表情が一変しました。
「もうやだ!家出する!!」
裸のまま出口へ向かって駆け出す娘。私もびしょ濡れのまま追いかけます。とにかく外に出すまいと必死に引き止めました。
娘の体だけは急いで拭き、なんとか服を着せましたが、それでも暴れ続けます。
今にも飛び出しそうな勢い。押さえるだけで精一杯です。
自分の体を拭く余裕なんて、ありませんでした。
「お願い、今だけはやめて」
人の目も、状況も、何も考える余裕はありませんでした。
ただ目の前の娘をどうにかしなければ。その一心だけ。
「お願い、今だけはやめて…!」
気づけば、声は震え、涙がこぼれていました。娘を抱きしめながら、必死に落ち着かせようとするものの、力を込めるほどに娘はさらに暴れます。どうしたらいいのか分からない。この状況を一人でどうにかできる気がしない。そんな不安でいっぱいでした。
そんな追い詰められた気持ちの中で、ふと隣の気配に気づきました。視線を向けると、一人のご婦人がこちらを見ています。声をかけるべきか迷っている、そんな空気が伝わってきました。
そして、少し間をおいて、やさしくこう言ってくださったのです。
「抱っこしてあげようか。お母さん、大変ね」
見知らぬ優しさに、救われた日

ほんの一瞬、迷いました。暴れている娘を、見知らぬ方に委ねていいのか…。
けれど、そのときの私は、もう限界でした。
「すみません、お願いします…」そう言って、娘を託しました。
すると不思議なことに、あれだけ暴れていた娘が、ご婦人に抱かれた途端、ぴたりと落ち着いたのです。
その間に、私は急いで体を拭き、服を着ることができました。呼吸も、少しずつ整っていきます。
娘を返していただいたあと、ご婦人は「娘ちゃん、良い子にできたわね」とやさしく微笑んで、そのまま何ごともなかったかのように立ち去っていかれました。
あのときの言葉と表情は、今でもはっきり覚えています。
あの一言がなければ、あの手が差し伸べられなければ、私はきっと、あの場で立ち尽くしていたと思います。
子育ては、どうしても「自分でなんとかしなきゃ」と思いがちです。
周りに迷惑をかけてはいけない、頼ってはいけない。そんな思い込みに、知らないうちに縛られていました。
でも、あの日、ほんの少し勇気を出して「お願いします」と言えたことで、救われた自分がいました。
差し出された優しさを、素直に受け取ること。それもまた、子育てを続けていくために大切な力なのだと、教えてもらった気がします。そしていつか、あの日のご婦人のように誰かが困っているとき、一歩踏み出せる自分でありたいと心から思っています。
(ファンファン福岡公式ライター/yutaka)





