GW恒例の潮干狩り。初めてのマテ貝採りに大苦戦し、時間は刻々と過ぎていきます。潮が満ち始め、空っぽのバケツを前にガッカリする息子。諦めかけていたその時、隣の見知らぬ方から予想外の声をかけられます。人の優しさに触れた、忘れられない一日の記録です。
逃げる貝を追いかけて、親子で夢中

その日の朝、私たちが干潟に降り立ったのはまだ潮が大きく引いていた頃でした。ゴールデンウィークの晴天の下、私たちは潮干狩りに挑んでいました。 息子にとっては初めての体験です。
アサリを求めてやってきたのですが、そこで目にしたのは、砂の小さな穴に「塩」を振りかけている人の不思議な姿でした。
しばらくすると、穴から「ニョキッ」と細長い貝が飛び出してきます。「なにこれ?面白い!」 夫はすぐさま近くのスーパーへ塩を買いに走り、わが家のマテ貝大作戦が始まりました。
しかし、いざやってみるとこれが案外難しい。楕円形の穴を見つけ、塩を入れ、じっと待つ。出てきた瞬間に指先でパッと掴む。身の部分を掴むとトカゲの尻尾切りのように身を一部残して、砂の奥底へと逃げてしまうのです。
夫が、身ではなく「殻」の端をしっかり掴んで、ゆっくりと引き抜くことに成功しました。
「お父さん、すごい!」 それを見て息子も負けじと穴を覗き込みますが、なかなか上手くいきません。ようやく一匹目をゲットしたときの満面の笑み…。けれど、そんな歓喜も束の間、広大な干潟を前に私たち初心者には難しすぎたのです。
空っぽのバケツに降り注いだ見知らぬ家族の優しさ

周囲が次々と収穫を上げる中、私たちの手元にあるのは家族3人合わせてもたったの5、6個。潮が満ち始めてタイムリミットが迫る中、息子は目に見えて落ち込んでいました。
そんな諦めムードを一瞬で変えてくれたのが、魔法のような「どさーっ!」という音でした。
「うわあ!いいんですか!?」
思わず大きな声を上げてしまいました。寂しかった私たちのバケツの中に、音を立てて流れ込んできたのは、大量のマテ貝。隣で慣れた手つきで貝を採っていた見知らぬご家族が、笑いかけてくれます。
「うちはもう食べきれないから、よかったら持っていって」
人の温かさに触れたその瞬間、初夏の浜風が、さっきまでよりもずっと心地よく感じられました。
バターの香りと「おいしい!」の連呼…あの日の贈り物が変えた、我が家のGW

帰宅後、さっそくバター焼きにしました。 フライパンから立ち昇る、磯の香りと香ばしい醤油の匂い。
「おいしい!これ、すっごくおいしいよ!」 一番多く食べていたのは、息子でした。 自分で必死に穴を覗き込んだ経験と、見知らぬ家族からもらった優しさが、きっと隠し味になっていたのだと思います。
マテ貝特有の濃厚な旨味が口いっぱいに広がり、昼間の疲れも、採れなかった悔しさも、すべてが幸せな満腹感に溶けていきました。
あの日から、わが家のゴールデンウィークの恒例行事は「マテ貝採り」になりました。年を追うごとに息子もコツを掴み、当時の苦戦が嘘のように上手になっていきました。
成長した息子は、もう私たちと一緒に潮干狩りに行くことはありません。でも今でもスーパーでマテ貝を見かけると、あの「どさーっ!」という音と、見知らぬ家族の笑顔が鮮明によみがえります。それはわが家の忘れられない夏の思い出です。
(ファンファン福岡公式ライター/hitoyume)





