とちぎ法律事務所・栃木史郎弁護士が身近な法律問題について解説する連載です。第1回は、認知症だった父親の預金が死亡前に親族によって引き出されていた場合、相続人としてどのような対応ができるのかを紹介します。

▼質問
数年前から認知症を患っていた父が先日亡くなりました。相続人は母、兄、私の3人です。父名義の銀行口座を確認したところ、数年前から多額の預金が繰り返し引き出されていました。
父と同居していた兄は自分が引き出したことを認め、「父から贈与された」「介護や父の生活費として使った」と言います。お金は返してもらえますか。
▼回答
質問のようなケースでは、兄に対してお金の返還を求めることができる場合があります。
法律上の理由なく利益を受けた人に対する「不当利得返還請求」です。父が生前であれば父にこの請求の権利がありましたが、死後は相続分に応じて権利があなたにも引き継がれます。不当利得に当たるかどうか、遺産分割に応じる前に必要な資料を集め、早めに弁護士と相談することをおすすめします。
●「使途不明金」の整理を
兄が「贈与された」というのであれば、兄が裏付ける証拠を示して立証すべきでしょう。贈与したとされる当時の父の様子、贈与の経緯、金額の大きさ、使途などを総合して判断されます。贈与時に父の判断能力が低下していた場合には贈与の効力が否定されることがあります。
「介護や生活費として使った」と主張する場合も「いつ、何のために、いくら使ったか」などを具体的に説明してもらいましょう。特に通常の生活費として使いきれないような大きな金額だった場合には十分な説明が求められます。引き出されたお金の総額から、父のために使ったことが領収証などで認められる金額を差し引き、説明のつかない「使途不明金」がいくらあるのかを整理することが大切です。
●早めに資料の確認・保存を

返還請求を検討する上で次の資料を早めに確認・保存してください。
・父名義の全銀行口座の通帳、キャッシュカード、印鑑、取引履歴
・父の病院の診療録や介護記録、介護保険の認定資料など
・父が認知症と診断された時期や、判断能力の変化を示す資料
・領収書、家計のメモ、兄とのメールなど、お金の使途を示す資料
疑問が残っている間は遺産分割の話し合いを安易に進めず、早めに相続問題を得意とする弁護士に相談することをおすすめします。
※本コラムは一般的な情報提供を目的としています。個別の事情によって適切な対応は異なるため、具体的な相談が必要な場合は専門家への相談を検討ください
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