2歳の息子と乗った慣れないバス。降車ボタンを押したがる姿にヒヤヒヤしながら制止する私と、気になる周囲の視線。そんな中、後ろの男性からの一言で空気が変わりました。そこから始まった乗客たちの優しい連鎖を体験した話です。
バスにテンションが上がりすぎた2歳の息子

息子が2歳のときのことです。普段あまり乗ることのないバスに、息子は大はしゃぎでした。高い座席、揺れる車内、そして何より目に入ったのは、あの赤いボタン。降車ボタンです。
「押したい!」そう言って、何度も体を乗り出して手を伸ばします。
「まだだよ」「降りるときにね」最初は穏やかに声をかけていたけれど、全く聞く様子はありません。
「静かにしなさい!まだ降りないんだよ!まだ押さないよ!」気づけば、少し強い口調になっていました。
刺さるような視線の中で

息子の手を押さえながら、周りに目を向けると、前の席や通路側から、ちらちらと視線を感じました。
(うるさいって思われてるかな)
(ちゃんと見てないって思われてるかも)
そう思うと、胸がざわついて、余計に余裕がなくなっていきます。なんとかしなきゃ。でもどうにもできない。そんな焦りの中で、ただ時間が過ぎるのを待つしかありませんでした。
後ろからの大きな声に固まる私
そのとき、後ろの席から大きな声がしました。
「おい!ボウズ!」
ドキッとして、思わず体が固まります。
あぁ、やっぱり怒られる。そう思って振り返ると、そこには年配の男性が座っていました。そして、続いた言葉は予想とは全く違うものでした。
「ボウズ、おじさん次降りるからボタン押してくれるか?」
一瞬、頭が追いつきませんでした。でも息子はすぐに反応して、
「いいの?」と目を輝かせます。
「いいよ、お願いするわ」私がそう言うと、息子はうれしそうにボタンを押しました。
「ピンポーン」という音が鳴った瞬間、さっきまでのソワソワが嘘のように、満足そうな顔に変わりました。
バス停に着くと、男性は立ち上がり、
「ボウズ、ありがとな!」と息子の頭をひとなでして降りていきました。
広がっていった優しい声かけ

すると、隣に座っていた女性が笑顔で声をかけてくれました。
「僕よかったねぇ!次はおばさん降りるから、おばさんの分のボタン押してくれる?」
息子はすぐに、「うん!いいよ!」とニコニコ顔で答えます。
少ししてから女性は、私の方を見てやわらかく言いました。
「やらせてあげたかったけど、自分の降りるところがまだだったから待たせちゃったわね」
そして少し申し訳なさそうに、
「声かけたくてチラチラ見ちゃってて…ママ、ごめんね」と続けました。
さっきまで気になっていた“視線”の意味が、まるで違うものに変わった気がしました。
少しだけ変わった“周囲の見え方”
そのあと、息子はもうボタンに手を伸ばすことはありませんでした。2回も押せたことで満足したのか、私たちが降りるバス停まで、大人しく座っていました。
イヤイヤ期の子どもとの外出は、それだけでも大変です。そこに重なる“周囲の目”に、しんどさを感じることもあります。でもあの日のバスで出会った人たちは、違いました。困っている状況を責めるのではなく、少し形を変えて受け止めてくれた。
あれからも、視線が気になることはあります。正直、今でも余裕がなくなることも。それでも、ふと思い出すのは、あのときのやり取りです。
みんながみんな、冷たい目で見ているわけじゃない。そう思えたことで、少しだけ外出が楽になった気がしました。
(ファンファン福岡公式ライター/irone)





