明治生まれの祖母のちょっと怖くて不思議な思い出をまとめた連載「祖母が語った不思議な話」正続編終了時に、多くの方から続編を望まれる声をいただきました。御期待に応えた第3シリーズです。

時は戦国時代、海を背にした岩山に立つ山城に、代々家宝として「闇呼」という名の笛が伝わっていた。
不思議なことにどれほど名手が吹いても音一つせず、いつしか「国が滅びる時にだけ鳴る不吉な笛」と囁(ささや)かれるようになっていた。
そんな「闇呼」だが領主・海部元綱は家宝として大切にしていた。

ある時、複数の勢力が結託した軍勢が遠国から攻めてきた。
小国だった海部に勝ち目はない。
落城の火が迫る中、元綱は城で随一の女武者・美音(みお)に六つになる世継ぎ・若綱を連れて逃げ延びるよう命じた。
「これも頼む!」
元綱は「闇呼」を渡し、にっこり笑った。
「父上!」叫ぶ若綱を抱えると美音は走り出した。

二人は裏門から海に続く鍾乳洞の中を必死に逃げたが幼い若綱を連れてのこと、洞窟を抜けた海に面した崖で十人を超える敵の精鋭に追いつかれた。
あと少しで海に降りる隠し通路…しかしこうなってはもう逃げることは叶うまい…若君だけでも!
美音は懐から「闇呼」を取り出し「若君、私が追手を倒します。これを持ってお逃げください」と言うと敵に向かって行った。

一人、二人…三人目を斬ったところで刀が折れた。
四人目に組みつくと小刀で倒した。
だが、そこまでだった。
美音はあちこちを斬られ、もう立っているのがやっとだった。
「女の身で大したものだ。だが、もう終わりだな」敵の侍大将が迫る。

その時、「ゴーッ」という凄まじい音が聞こえたかと思うと洞窟から漆黒の奔流が吹き出した。
その黒い流れに包まれ視界を奪われた侍たちは喚き、叫び、狂ったように暴れ、そして崖下へと落ちて行った。
それを見届けると黒い奔流は洞窟に消えて行った。
「美音、無事か?」
「闇呼」を両手で構えた若綱がいた。
「若君、闇呼をお吹きになられたのですか?」
「うむ。これで最期かと思ったとき、これを吹いたのだ。やはり鳴らなかったが、救ってくれたようだ」
闇呼が招いた黒い奔流を確かめるため、二人は洞窟にとって返した。

そこには数万を超えようと言う蝙蝠(こうもり)の群れが天井や壁を埋め尽くしていた。
海部の城が立つ崖の内側には巨大な鍾乳洞が広がっており、そこは古来より数多(あまた)の蝙蝠の棲家となっていたのだった。
「鳴らない笛・闇呼」は、人には聞こえない音でその蝙蝠たちを呼び寄せることができる、祖先が残した瑞宝だった。
夜が明ける頃に城は焼け落ちたが、美音と若君は無事に友好関係にある隣国へ逃げ延びることができた。
…………………………………………………………
街灯に火が灯る頃、飛び交う蝙蝠を見ながら祖母が聞かせてくれた話だ。






チョコ太郎より
お読みいただき、ありがとうございます。「まとめて読みたい」とのご要望をたくさんいただきました。下のボタンからお入りください。
ご希望や感想、「こんな話が読みたい」「こんな妖怪の話が聞きたい」「こんな話を知っている」といった声をぜひお聞かせください。一言でも大丈夫です!下記のフォームからどうぞ。
※第59話のタイトル表記も間違いをお教えくださった城南五山さん、ありがとうございます!
