明治生まれの祖母のちょっと怖くて不思議な思い出をまとめた連載「祖母が語った不思議な話」正続編終了時に、多くの方から続編を望まれる声をいただきました。御期待に応えた第3シリーズです。

似非(えせ。にせもの)祓い師・井笠磨太呂が海添いを旅していると前方に村人が集まっていた。
皆、棒や鍬を手にしている。
井笠が立ち止まり、けげんな顔で見ていると一人の老人が近づいてきた。
「私はこの村の長ですじゃ。魔物退治で名を馳せておられる井笠様とお見受けいたしました。何卒この村の窮地をお救いください」
その言葉に合わせ皆が頭を下げる。
どうやら隣村での疫病封じの噂を聞いたらしい。
嫌も応もなく、井笠は古い寺に連れて行かれた。

「ここです。この寺に化物が住みついておるんですわ」
「ど、どんな化物ですかな?」
「大きな翼を持った化鴉で、最初は牛や馬が攫(さら)われていたのですが、人も狙われるようになり…外を出歩くときはこうやって皆で固まって身を守っております」
「詳しい話を聞きたい。この寺の御住職はおられるかな?」
「井笠様が立っておられるその下で静かに眠られておられます。化鴉を調伏しようとして返り討ちに…」
「うわっ!」井笠は飛びのいた。
「おほん。鴉の化物と言ったな。鳥ならば夜は苦手なはず。儂に任せい!」
「ありがとうございます。ただ、ヤツの大きな一つ目は闇夜でも何でも見通しますのでお気を付けて」
井笠は真っ青になった。

村人が去り、一人残された井笠は仕方なく本堂の囲炉裏(いろり)で村人から差し入れられた山盛りのサザエをジュウジュウと焼き、酒とともに腹に収めていたが、夜が深まるにつれ恐怖が募ってきた。
「今のうちに逃げねば!」
独り言を言いながら井笠が寺の裏口からこっそり逃走を試みたその時…背後から大きな羽音が響いた。
「カカカッ……お前が化物退治の井笠カァ。その喉笛を食いちぎり、どんぐりまなこを抉(えぐ)り出してやろうぞ」
月の光に浮かび上がったのは一丈(約3m)ほどもあろうかという翼を広げた大鴉!
腰を抜かした磨太呂は、四つん這いで本堂へ逃げ戻った。

座敷まで井笠を追った化鴉が「逃げ場はないぞ!」と嘴(くちばし)を突き出したその瞬間、囲炉裏で煮え繰り返っていたサザエが爆ぜた。
殻の中から噴き出した沸騰したつゆは化鴉の大きな一つ目を直撃した。
「ギャアアア! 熱い! 熱い! 」
物凄い咆哮(ほうこう)を上げのたうち回る化鴉。
そのあまりの恐ろしさに井笠は白目を剥いて失神、仏像の足元に倒れ伏した。

視力を失った化鴉は井笠の気配を感じ取ろうと耳を欹(そばだ)てた。
しかし気配はまるで感じられない。
(消えた……⁉︎ どこへ行った⁉︎ 隠れて我を狙っているのか…?)
焦燥の中、化鴉の視力がわずかに戻り始めた。ぼんやりとした視界の先に人影が映る。
(いたぞ! 微動だにしないとは不敵な奴め。一撃で粉砕してやる!)
「そこだぁぁ!」化鴉は弾丸のように人影に向かって突進した。
「ドッガァァァァァン!!!」
凄まじい衝撃音が村全体に届く。
その音に集まってきた村人は信じられない光景を目の当たりにした。

本堂の中央に鎮座する木造の仏像に突き立てた嘴が抜けなくなって目を白黒させている巨大な化鴉、そしてその横で眠っている井笠磨太呂!
「おお、さすがは井笠様! 眠ったまま仏の御力を借りて、化鴉を捕縛なさられたぞ!」
村人たちは磨太呂を称え、まだ気絶しているカラスを頑丈な藤蔓(ふじづる)でぐるぐる巻きにして、境内の松の木に縛り付けた。
何が起こったのかさっぱり分からない井笠だったがそんなことはおくびにも出さず、たくさんのお礼を受け取ると意気揚々と村を出た。
その夜、仲間の化物どもが化鴉を救い出しに来た。
ボロボロになった化鴉は震えながら仲間たちに語った。
「あの男は本物だ。一瞬で我の光を奪いその後は完全に気配を消した。気が付と仏に捕まっておった。恐ろしいヤツだ!」
妖(あやかし)達の間で井笠磨太呂の名はさらに高まった。






チョコ太郎より
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