実家の一本の柱に、木の節が作り出した牛頭馬頭のような顔がありました。
子どもの頃はただの妖怪にしか見えず、怖くて仕方がなかったのです。でも、その柱には大切な秘密がありました。
昼間に光るものが庭を飛び、家のあちこちで声がする、食べ物が早く傷む… そんな変事が立て続けに起こったとき、祖母が気づいたのは柱の顔に貼られた一枚の障子紙。
「守り神の目を塞いではいけない」─明治生まれの祖母が大切に守り続けた、柱の守り神の不思議な話をお届けします。
顔のついた柱

実家に顔のついた柱があった。
複数の節が創り出した顔は牛頭馬頭のように見えた。
子どもの頃はそんなものは知らないから、ただ角の生えた妖怪に違いないと思っていた。
ほかの柱より古ぼけているのも不思議だった。
子どもたちには不評だったその柱に祖母の思いが込められていたことを知ったのは小学校に上がってからだった。
神主と大工に選んでもらった木材

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春も終わりのある日、祖母が件の柱を丁寧に拭いていた。
見ると、三歳にならない妹が貼った写し絵のシールを剥(は)がしていたのだ。
「この柱、変わってるよね。お化けみたいな顔があるし、ほかのに比べて古いし…」
「これはね大切な柱なんだよ。ここに越してくる前に住んでいた家のときから使っていたものでね。建てるときに神主さんと昔からのしきたりに詳しい大工さんに選んでもらった木材なんだよ」
「…わざわざ」
「そう。そのおかげか激しい空襲にもかかわらず家は無傷、家族も無事だった。この顔が他の悪いものを寄せ付けないんだよ」
「へえ! すごいね。それなら心強いや」
障子紙が貼られた顔

「前の家に住んでいたときに、変事が立て続けに起こったことがあってね。昼間なのに光るものがいくつも庭を飛ぶ、家のあちこちで声がする、食べ物が早く傷む…」
「なにそれ! 怖いや! 柱があるのに?」
「私も変だと思って柱を見たよ。そうしたら…」
「そしたら?」
「顔の所に障子紙が貼ってあったんだよ」
守り神

「誰が貼ったの?」
「あなたのお父さん。ずっと柱の顔が怖い怖いって思っていて、見えないように貼ったんだって」
「怖い事が起こったのはそのせいだね!」
「私もそう思ったからすぐに剥がしてきれいにし、お神酒を供えたの。そしたら効果覿面(てきめん)! 変な事は起きなくなったよ」
「すごい!」
「守り神の一人だね。だから前の家を壊し、この家を建てたときにも大切に持ってきたんだよ」
「ぼくもこの柱を大事にするよ!」
それから大学に入り家を出るまで、その柱を拭くのが日課となった。
顔のついた柱

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今も実家には顔のついた柱がある。
(ファンファン福岡公式ライター/チョコ太郎)
※本記事は、ファンファン福岡に掲載された公式ライター・チョコ太郎の連載「祖母が語った不思議な話」で過去掲載された記事を、再構成・再編集したものです。
チョコ太郎より
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