明治生まれの祖母のちょっと怖くて不思議な思い出をまとめた連載「祖母が語った不思議な話」正続編終了時に、多くの方から続編を望まれる声をいただきました。御期待に応えた第3シリーズ、今回は筆者・チョコ太郎が体験した怪異です。

社会人になって3年目の夏。
友人を誘って4人で山口県に遊びに行った。
関門橋を渡り山口県に入ると国道を外れ細い山道を車で登って行く。
小一時間で豪華なホテルに着いた。受付でお揃いの服を着た子どもを連れの幸せそうな若夫婦の後に並ぶ。

「いいねぇ!」
「ゴージャスだね」そう言い合っていたら、今回の手配係だった村山くんが小さく「あっ!」と叫んだ。
「ここじゃなかった! ここから車でちょい行ったとこ」
「え〜!!!」

車を10分走らせる。
林の中に古い温泉旅館に着いた。
「こっちもなかなかいい雰囲気じゃん」
「趣あるね」
チェックインを済ませ、鍵を渡された。
「百合」と書かれた離れの部屋に荷物を置くと、最寄りのコンビニまで川沿いを歩いてみた。
最寄りと教えられが、コンビニまではかなり遠く30分ほどかかった。

飲み物やつまみを買い、来たときとは違う夕暮れに染まる林の中の道を帰った。
「うわ、なんだこれ?」
宿まであと少しというところの神社まで来たとき中山くんが叫んだ。
鳥居の根本にすごい数の甲虫が集まっている。
棒で払うと下から動物の死骸が出てきた。
「なんだろう気持ち悪いな…もう行こうよ」
田村くんの言葉に皆うなずいた。

食事を済ませ露天風呂を堪能し離れの部屋に戻った。
しばらく本を読んだりテレビを見たり、各勝手に過ごしていたとき、「ドンドン」と戸が叩かれた。
「はーい!」村山くんが応えながら立ち上がり戸を開ける。
誰もいない。
村山くんは靴を履くと外に出たが2、3分して狐につままれたような顔で戻ってきた
「人っ子ひとりいなかった。たしかに誰かが戸を叩いたよね…みんな聞いたろ?」
「うん。たしかに叩いたよ」
「他の宿泊客が自分の部屋と間違ったんだろ。そんなことよりにボトル回しゲームやろう! ボトルを回して口が向いた人がグラスで1杯飲むやつ。弱い人は小さいグラスでもいいし、割ってもいいことにしよう」
「それでもたくさんは飲めないよ」
「じゃあ、怖い話を一つするってのはどう? 夏だし」
「おもしろそう。やろうやろう」
皆テーブルの周りに集まった。

ゲームを始めると不思議なことにほぼ均等に当たる。
酒に強い言い出しっぺの村山くん以外は2回に1回は怖い話をした。
内容は自ずから夏の話が多く、今の状況と重なってなかなか雰囲気がある。
5周りくらいしたときに中山くんが突然その場でもどした。

顔が真っ青だ。
「寒い寒い」布団に寝かせたがガタガタ震えている。
「おい、ほんとに寒くないか?」と村山くん。
「うん。8月でこんなに寒いなんてあるのかな?」田村くんも同意した。
「この部屋のせいかな?」
3人で外に出てみた。
夜とはいえ、夏真っ盛りの熱気だった。
足元には鹿かなにかの骨が転がっていた。
「…やっぱりおかしいね。あの部屋だけだよ」
「涼しくていい…ってわけにはいかないね」

時間は深夜2時を回っていたが、受付にはオーナーと思われる初老の男性がいた。
村山くんが「一人が喘息を起こしたので部屋を変えてほしい」と頼んだ。
「ええっと、百合の間でしたか…では少し狭いですが、山茶花にお移りください。部屋の中はそのままで結構ですので、お荷物だけお持ちになってください」と鍵を渡された。
部屋に戻ると中山くんを抱き起こし、「山茶花」の部屋に移った。
「やれやれ、こっちは普通に暑いや。ボトル回し、なかなか面白かったのになぁ」
「怪談もだいぶ話したから、変なものが来たのかも」
「うん。なんか気持ち悪かったねあの部屋。移って正解正解」
それからは宿を出るまで何事もなく、無事に旅を終えた。

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それから3年、お盆で帰省した4人が揃ったのでビアホールに行った。
最近の出来事を報告し終えると思い出話に移っていった。
「そういえば、山口の旅館に泊まりに行ったね」
「ああ、真夏なのにめちゃ寒かった宿!」
「中山くんが急に具合が悪くなって、部屋を変えてもらったよね」

ここまで話したとき、中山くんが口を開いた。
「実はね…あんまり不思議だったから、去年もう一度行ってみたんだ。そしたらね、ないんだよ、更地になっていて。もやもやしたので、あの間違って行ったホテルで聞いてみたんだ」
「そしたら?」
「1年前の8月に全焼したんだって。泊まり客が何人か亡くなったらしいよ。それでね…やっぱり変なんだよ」
「何が?」
「失火原因がストーブ。真夏なのにね…」






チョコ太郎より
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