猫を飼い始めたら、スマホもキーボードも即占拠。洗礼の毎日だったけれど、仕事で落ち込んだある日、愛猫はそっと寄り添いゴロゴロと喉を鳴らしてくれました。真剣な顔で画面を見つめる姿に、心のトゲがすっと消えた愛猫とのエピソードです。
臆病な、小さな新入り

うちに猫の「ゆき」がやってきたのは、一昨年の夏のことです。
友人から「保護猫を引き取ってほしい」と連絡が来たとき、正直迷いました。会社員であるという仕事柄、家にいない時間の方が長い。さらに、猫を飼ったことがない。ちゃんと世話できるだろうか。そんな不安を抱えながらも、写真に写った小さな猫の顔に、気づけば「引き取ります」と返信していました。
やってきた初日、ゆきはキャリーケースが開いた途端慌てて出てきたと思ったら、息子のベッドの下に隠れて、奥で丸まったままこちらをじっと見ていました。
目が合うと、すっと視線をそらす。「警戒されてるな」とは思いましたが、そのうち慣れるだろうと気楽に構えていました。
ところが3日経っても、1週間経っても、2週間経っても、ゆきはベッドの下が定位置のまま。ベッド下に配置したご飯のときだけ音もなく出てきて、私が少しでも近づくと風のように消える。まるで忍者です。
「保護猫 慣れるまで」とネットで検索しながら、「焦らないようにしよう」と自分に言い聞かせる日々が続きました。
変化が訪れたのは、1カ月ほど経ったある夜のことです。
副業でやっている仕事の締め切りに追われてパソコンの前に座っていると、背後に気配を感じました。振り返ると、ゆきがリビングの角から顔を出してこちらをうかがっています。目が合っても、今度は逃げませんでした。
それからは早かった。翌日には部屋をうろうろするようになり、それから3日後には私の足元に来るようになり、1週間後には膝の上に乗ってくるようになりました。慣れたら慣れたで、今度は距離がゼロになりました。
キーボードもスマホも、全部占拠されました

まず最初にやられたのが、キーボードです。
仕事中、ゆきは当然のような顔でキーボードの上に乗ってきます。
「zzzzzzzzzzz」「;;;;;;;;」などの謎の文字列が原稿に大量発生。
「ゆき、だめ!」と言って退かしても5分後にはまた戻ってきます。私の手をじっと眺め、キーを叩く指を前脚でぽんと押さえてくる。
仕事の邪魔をしているというより、「これは何をしているの?」と純粋に興味津々な様子で、怒る気力も失われます。
スマホも同様です。画面を見ていると、どこからともなくゆきが現れて、両腕の上に乗ってくる。通話中に「にゃ」と一声入ることも一度や二度ではありません。
先日は打ち合わせのビデオ通話中に画面の前に陣取り、相手に「猫、かわいいですね!」と話しかけられ、私は完全に存在を忘れられました。
極めつけは、集中しているときに限って膝に乗ってくることです。
締め切り1時間前、さあ書くぞというタイミングでふわっと膝の上に着地する。動かせない。原稿が進まない。
でも温かくて、なんかいい匂いがして、結局そのまま撫でてしまう。締め切り遅れを何度ゆきのせいにしたか、わかりません。
その日、ゆきは隣にいてくれた

そんなゆきに、本当に救われた日がありました。
あれは本業の仕事でミスをしてしまった日のことです。相手からの苦情に対してうまく対処できず、上司の手をわずらわせてしまうことになってしまいました。
謝罪はしたものの、上司の『仕方ない』という表情がどうしても頭から離れず、自己嫌悪で胸が重くなりました。
そのとき、ゆきが静かに膝に乗ってきました。
いつものようにどかそうとしたのに、その日は手が止まりました。ゆきは私の手に頭をすり付け、ごろごろと喉を鳴らしながら丸くなりました。
副業をしようと立ち上げたパソコンを開いた私の顔をじっと見つめる目が、真剣そのもので。まるで「一緒に悩んであげようか」と言っているみたいに見えて思わず笑ってしまい、胸に詰まっていたものが、すっと消えた気がしました。
ゆきは今日もキーボードを踏んでいます。さっきも「あああああ」という謎の文章が原稿に混入しました。この文章を書いている間も、2回は乗ってきました。
それでも、あの臆病なくせに飼い主には大きく出る姿がそこにいるだけで、なぜかまた頑張れる気がするのです。
(ファンファン福岡公式ライター/shinobu)



