新・祖母が語った不思議な話:その陸拾捌(68)「夕焼け色のアイス」

明治生まれの祖母のちょっと怖くて不思議な思い出をまとめた連載「祖母が語った不思議な話」正続編終了時に、多くの方から続編を望まれる声をいただきました。御期待に応えた第3シリーズ、今回はちょっと不思議な筆者・チョコ太郎の思い出です。

イラスト:チョコ太郎(協力:猫チョコ製作所)

小学校中学年のとき、ユリ・ゲラーのテレビ特番から火がついた「超能力ブーム」は、あっという間に子どもたちの間に吹き荒れた。
給食の時間にスプーンを曲げようと擦(こす)る、ESPカードを自作して透視にチャレンジする、伏せたカップの中のサイコロの目を当てる練習をする…そんな狂騒の中で、クラスの浦田純子という女の子に超能力があると噂になった。

「純子は、駄菓子屋アイスの包みの裏のアタリを絶対に当てる」

ある日の放課後、彼女と二人きりで帰る機会があった。
たまたま教室に残っていた生徒の中から僕と純子が、視聴覚室の掃除を担任の先生から頼まれたのだった。
視聴覚室には設備が多く、掃除を終えて一緒に門を出たときには他の生徒は誰もいなかった。

7月の夕陽が引き延ばす長い影を踏みながら、今日の出来事やプール開きが待ちきれないといった話をしながら歩いた。
西日に染まった彼女の横顔を見ていると好奇心を抑えきれなくなった。

「ねぇ、なんでアイスの当たりが分かるの? 本当に超能力?」

純子は少し照れたように笑い、顔を近づけると小さな声で教えてくれた。
「……印刷のズレたのを選ぶの。誰にも言っちゃダメよ」

納得した。
超能力なんかじゃない、彼女の鋭い観察眼。
それがちょっと大人びて見えて、なんだか秘密を共有したような誇らしい気持ちになった。

季節は巡り2人とも同じ中学校に進んだがクラスは別で、廊下であっても「よう!」と挨拶するくらいだった。

そんなある日の放課後、門を出ると彼女がいた。
「どうしたの?」
「一緒に帰ろうよ」
ぶっきらぼうに言う彼女の耳たぶが赤い。

期末テストの結果やクラブ活動の話をしながら夕陽に向かって坂道を並んで歩いた。

「あの日もこんな夕焼けだったね」
「小学生のときに一緒に帰ったときだね」
「そう。そのときに話したアイスの謎解き、覚えてる?」
「うん。印刷のズレ、だろ?」
「本当はね…………違うの」

彼女は立ち止まり、夕陽を受け赤く輝く瞳で、僕を真っ直ぐに見つめ、そして言った。
「形…ええっと、輪郭がね…少し光って見えるの。他のアイスの中でそこだけ光が滲んでいるみたいに、ぼんやりだけど。それを選ぶと当たるの」

彼女を取り巻く空気だけが、ふっと現実から浮き上がったような感覚に捉われた。
からかっているようには思えなかった。

「駄菓子屋…寄ってく?」
「行こう!」

思わず彼女の手をつかんでいた。
僕らは何年ぶりかでお馴染みの駄菓子屋に立ち寄った。
冷凍ケースの前に立つと、純子は無造作に1本のアイスを選ぶと支払いを済ませた。
店先で包みを破る。
包みの内側には「あたり」の文字。

「はい、どうぞ」
彼女はいたずらっぽく微笑み、当たりでもらったアイスを驚いている僕にそっと握らせた。
駄菓子屋近くにある神社の境内で夕陽に染まったアイスを二人で食べた。
バニラ味だった。

その夏の終わり、純子は遠くの街に引っ越して行った。

……………………………………………

夕焼け色のアイスの冷たさと、胸の奥に灯った小さな熱。
あのとき感じたのは、彼女の不思議な力への驚きだったのか、それとも…

今でもアイスを食べるたびあの夏の思い出が、記憶の底からふわりと蘇ってくる。

チョコ太郎より

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