佐賀県玄海町では、浜野浦の「棚田クリエイター」や棚田米おむすびの「朝ごはんコーディネーター」など、ユニークな地域おこし協力隊を募っています。町外からやって来た協力隊員を地域丸ごとの愛情で応援し、地域に必要とされる人材へと育み、第2のふるさとに選ばれる―そんな玄海町の魅力や暮らしぶりを、地域おこし協力隊卒業後も玄海町に定住することを選んだ橘髙(きったか)ちひろさんに聞きました。
棚田の景色と浜野浦の皆さんの温かさに触れて移住を決意

―橘髙さん、今日はよろしくお願いします。まずは「玄海町ってどんなところ?」という皆さんのために、玄海町のプロフィールを紹介してください!
橘髙さん 玄海町は本当に美しい町です。町の西側にある仮屋湾は、のんびりとおだやか。そして、玄界灘に面した海岸は、リアス式海岸の複雑な入江が続いています。なかでも、浜野浦という入江にある棚田は、私が大好きな場所です。さまざまな形の田んぼが、海から階段のように連なっていて、水を張った棚田に夕陽が映る風景は、ずっと眺めていられるほど。私は浜野浦の集落に住んでいるのですが、棚田に来るたび、いまだに感動しています。

浜野浦の棚田でお米も育てていて、「この風景のなかで農作業ができるとは、なんて贅沢(ぜいたく)なこと!」と、いつも思っています。浜野浦の棚田は、約400年前の戦国時代につくられました。名護屋城築城のために集まった石工たちが技法を伝えたそうで、当時の棚田が今も残っています。海岸側から見る棚田は石垣が圧巻! で歴史を感じます。上から眺める景色とは違う迫力がありますよ。
また、玄海町にはおいしい食べ物が山ほどあることも、伝えておきたいです! 私は地域おこし協力隊として「玄海町みんなの地域商社」の職員でした。仕事の一つに、玄海町の名産品の発信があり、佐賀牛、鯛(タイ)、牡蠣(カキ)、イチゴ、ミカンなど、どれもおいしくて、仕事といえど胃袋をつかまれっぱなしでしたね。
当時は、仕事で生産者さんと話をさせていただくことも多く、モノづくりにかける熱意やプライド、常にさらに上を目指している姿がとてもかっこよく見え、”この人の役に立ちたい”と思う日々でした。

浜野浦の暮らしは性に合っているそうです
―橘髙さんは、地域おこし協力隊として玄海町に移住した当初、住まいの浜野浦集落のみなさんはどのように迎えてくれましたか?
橘髙さん 玄海町にやって来たのは、2020年6月です。インドネシア人の夫・Jupとの結婚を機にインドネシアへ移住し、一時帰国していた際、前職のNPO法人の仕事を少し手伝うことになり、映像制作のコーディネーターとして浜野浦の棚田を訪れました。そのとき、棚田の景色と浜野浦の皆さんの温かさに触れて、「こんな素敵(すてき)なところで暮らせたらなぁ」を思っていたところ、地域おこし協力隊の募集を知って応募しました。
地域おこし協力隊に応募したときには長男を妊娠しており、出産2カ月後に家族3人で玄海町へ引っ越しました。浜野浦の皆さんは、まさか外国人がご近所さんになるとは思ってもみなかったと思いますが、現在住んでいる一軒家を貸してくださることになりました。地区のみなさんも最初は「大丈夫かな?」と心配されたはずですよ(笑)。今となっては、皆さんとっても気にかけてくださいます。
また、大家さんのご厚意で、今住んでいる家を譲っていただけることになり、私たち家族は、さらにしっかりと浜野浦に根を張れるようになりました。
ほかにも、軽トラが必要になったと相談すれば、みんなが気にかけてくれたり、雨どいが壊れていたら、ささっと直してくれたり、家の前の畑をトラクターですいてくれたり……いろんな思い出があります。
棚田の田んぼも借りて、自分たちで米づくりをしているので、米の育て方もしっかり教えてもらいました。そんなふうに、いつも気にかけてくれる浜野浦のみなさんのおかげで、ここでの暮らしが成り立っています。
「私って浜野浦で生まれ育ったんだっけ?」と思うほどここが好き

―地域おこし協力隊卒業後も浜野浦集落に住み続けることになった、きっかけはありますか?
橘髙さん それが、特に大きなきっかけはないんですよね〜。ただ、移住当初から「私って浜野浦で生まれ育ったんだっけ?」というくらい、この場所が好きになり、集落にもすっかりなじんでしまったんです。ご近所の方が同級生の話で盛り上がっているとき、「あれ、私はいなかったんだっけ?」と不思議な気持ちになるほどです。
また、夫も「インドネシアの故郷にどことなく似ている」と気に入っています。ご近所付き合いがあるのもインドネシアと一緒なので落ち着くそうです。
以前、「ここにリトル・インドネシアをつくりたい!」と冗談半分で言っていたのですが、最近はインドネシアからの技能実習生が玄海町で暮らしています。彼女たちが家に遊びに来てくれたときは、わが家がリトル・インドネシアになっていましたね。これからも、気負わず交流を続けていきたいです。

晩ごはんにJupさん手作りのインドネシア料理を食べる日も
―橘髙さんが浜野浦集落に暮らして6年目。温かな受け入れ体制のおかげもあり、お二人にとって浜野浦集落は第2のふるさとになっているようですね。
橘髙さん 息子にとっては、本物のふるさとですもんね。そしてもう一人、浜野浦がふるさとになりそうな人がいます。地域みらい留学生として、埼玉県から玄海町にやって来た高校生です。今、わが家に長期ホームステイのようなかたちで受け入れをしています。
留学生を受け入れている(佐賀県立)唐津青翔高校の先生の熱意に後押しされたのもあり、また私自身、自分が好きになった玄海町を、町外から来る高校生にも思いきり楽しんでほしいという気持ちもありました。
2026年度で海珀さんも3年生です。今年は彼女の後輩がたくさん入学予定なので、楽しみですね。
入れるコミュニティーにできるだけ入ってみたら…

「地域おこし協力隊の時より忙しいかも」と橘髙さん
―話を聞いていると、地域のコミュニティーに自然体なまま深く溶け込み、橘髙さんらしく町に貢献されている印象です。このような現在地にたどり着くには、浜野浦の皆さんのほか行政からのサポートもあったのでしょうか? またご自身たちも努力をされたのでしょうか?
橘髙さん 自分たちで心がけたのは「入れるコミュニティーにはできるだけ入ろう!」ということくらいです。私の職場や浜野浦集落以外にも、夫の職場のコミュニティー、子どもの保育園のコミュニティーと、広がりがあるのが良かったのかもしれません。その点は、単身ではなくファミリーで移住したことのメリットかもしれません。
夫のJupは、浜野浦の消防団にも入ったんですよ。最初は言葉が分からないから迷惑をかけてしまうかもと遠慮していましたが、「やっぱり、どこかが火事になったとき、放ってはおけないよね」と相談に行きました。すると、歓迎して仲間に入れてくださって。
外国人を受け入れてくださるほうが大変なのに、「自分たちから言ってくれてありがとう!」と声をかけてくださいました。その温かさにも感謝しています。

この日の仕事は白いイチゴ「こころの色」の収穫でした
―地域おこし協力隊を卒業後は、どのような仕事をされているのですか?
橘髙さん 繁忙期の人手が足りない農家さんで、農作業をさせてもらっています。春先まではイチゴ、その後はハウスミカンと、複数の農家さんに通って繁忙期をバトンでつなぐように働いています。地域おこし協力隊の頃より忙しいほどですよ。
ほかには、以前勤めていた地域商社や玄海町役場から短期の仕事をいただいたり、飲食店のバイトさんのピンチヒッターをしたり、町内事業者さんが開催するイベントスタッフとして呼んでいただいたり。玄海町で生まれたご縁から、いろいろな仕事ができて楽しいです。
そうしたなかで興味が出てきたのが、生産者さんが人手不足のときに、働きたい人を地域内で募ることができる仕組みづくりです。例えば、冬から春先はイチゴ、夏はハウスミカン、秋は露地ミカンといったように、牡蠣や真鯛の養殖、酪農や畜産など、生産物が豊かな玄海町だからこそできる働き方ですし、生産者のみなさんにとっても玄海町への移住を考えている若者にとっても、すごくいいですよね。

―移住してきた人だからできる、新しい働き方の模索や提案って、あるのかもしれないですね。2026年度から新しい地域おこし協力隊の方もいらっしゃるようですし、今後の玄海町の動きが楽しみです!
橘髙さん そうですね。玄海町への移住を考えたとき、住む場所と仕事が見つからずに、あきらめる人もいると思うんです。仕事は、先ほどお話ししたような仕組みづくりでフォローできるといいですよね。
家に関しては、空き家があるにはあるのですが、すぐに住める状態でないことが多いようです。でも今後は、わが家の大家さんが私たちに家を貸してくれたように、「ちょっとリフォームしてでも、人に貸したり売ったりしたほうがいいかも」と考える方が増えるかもしれません。
これからも、地域おこし協力隊のメンバーはもちろんのこと、移住をしたい方も巻き込んで、より住みやすく、働きやすい玄海町になるよう、この大好きな玄海町のために、少しでも貢献できればと思います。
―いいお話をありがとうございました! 今後も橘髙さんのご活躍に注目しています。
浜野浦の棚田 〜現地説明会〜

日時:3月29日(日)13:00〜15:00
場所:浜野浦の棚田展望台、その周辺、浜野浦公民館
参加費:無料 ※限定30人
参加特典:浜野浦の棚田限定 缶バッチ等
持ち物:飲み物、タオル、雨具(天候に応じて)
服装:動きやすい服装、帽子、靴
※天候により内容が変更される場合あり
【詳細・お申し込み】 https://forms.gle/JJ5t7NYuC6VWw6EC9




