新・祖母が語った不思議な話:その肆拾肆(44)「大晦(おおつごもり)」

明治生まれの祖母のちょっと怖くて不思議な思い出をまとめた連載「祖母が語った不思議な話」正続編終了時に、多くの方から続編を望まれる声をいただきました。その御期待に応えての第3シリーズです。

イラスト:チョコ太郎(協力:猫チョコ製作所)

「冷えると思ったら雪になったな。明日はもう正月か…今年も苦しかったな」
大晦日の夜、若い炭焼きの清次は昼間に残しておいた握り飯を囲炉裏で焼きながら妻のハナに言った。

「困った人や病人を見るとあなたは懐具合と関係なく助けてしまいますからね」
「すまんな…お前には苦労をかける」
「本当ですよ!」
ハナが笑ったそのとき、戸を叩く音が響いた。

「…寒い…寒い。…一晩、泊めてくれ…」
その声に戸を開けると雪まじりの風と共に現れたのは、恐ろしく背が高くこれほど痩せた人間がいるのかと疑うほど骨と皮ばかりの男だった。
体は泥にまみれ、耐え難い悪臭が漂っている。

「まあ、なんてこと。さあ、こちらへ。今、火を強くしますから」
ハナはボロ着から出ている紫に腫れた男の手を取って中に引き入れた。

清次は、自分たちが食べるはずだった握り飯を迷わず男に差し出した。
男ががつがつとそれを食べている間に、ハナは湯を沸かし手桶に注いだ。
食べ終えた男の手をそれに入れ温めると男は落ち着いたようだった。
ハナと清次はどろどろに汚れた着物を脱がし、全身を優しく拭いた。
手拭いはあっと言う間に真っ黒になったので、何枚も何枚も使ってきれいに拭いた。
拭き終えると清次は自分の着物を脱いで着せ、自分は仕事着を羽織った。
そして、囲炉裏のそばで眠ってしまった男に一枚しかない布団を掛けてやった。

やがて、除夜の鐘が鳴り始めた。

男は目を覚まし静かに立ち上がると夫婦に言った。
「……情け深い夫婦よ。お前たちに『最も汚れたもの』を授けよう。儂をきれいにできたお前たちならきっとうまく使えるだろう」
そう言い残し、男の姿はすうっと煙のように消えてしまった。
後にはあの汚れ果てたボロ着が残されていた。

「不思議な人だったな…いや人じゃなかったのか?」
「あの声、どこか厳かな感じがしましたね…『最も汚れたもの』とはこの着物のことでしょうか? まずはこれを片付けましょう。このままで新年を迎えるわけにはいきませんから」 ハナがそう言って、ボロ着を持ち上げるとその下で何かが光った。

それは積み上がった大判小判だった!

男が言った「最も汚れたもの」とは、人々の「欲」や「苦しみ」がこもったもの・お金だった。
自分を汚すことをいとわずに慈しんでくれた夫婦に男は「富」を残していったのだ。

「これで良い年が迎えられる。ありがたいことだ」
「本当に」
そのとき二人を祝うように一番鶏が鳴いた。

……………………………………………………………………

「これはね、私がおばあさんから聞いた話だよ」
「面白かった! 男は福の神だったのかな?」
「そうだね。年の終わりには『大歳の客』という稀人(まれびと)が善良な家を訪れて福を授けるという伝承が日本中に残っているのよ」
「まれ人って何?」
「普段は別の世界にいて、時々現世にやってくる…神様みたいな存在かな」
「ふ〜ん…ウチにも来るといいね!」
「いい子にしてたら来るかもね」と祖母は笑った。

師走になると思い出す話である。

チョコ太郎より

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