道端で転倒した女性の体を支えて助け起こしましたが、女性はお礼も言わずにそのまま立ち去ってしまいました。せっかく助けたのに…と、少しモヤモヤした後味の悪さが残る出来事。しかし、思いがけずその場に居合わせた人たちのやさしさに出会いました。これは、引っ越してきたばかりで知り合いもなく、1歳半の娘と過ごす毎日に不安を感じていた頃の話です。私の心をそっとほどいてくれた、ある日の散歩道での「やさしさの連鎖」についてご紹介します。
慣れない街で、いつものお散歩

娘がまだ1歳半くらいだった頃のこと。よく晴れた午後、ベビーカーを押して、いつものように近所をふたりで散歩していました。当時の私は、引っ越してきたばかり。土地勘もなく、知り合いもいなくて、毎日が少し不安でした。
それでも娘と外に出る時間だけは、気持ちを切り替えられる大切なひととき。
「今日はどこまで行こうか」そんなことを考えながら、のんびり歩いていました。そんな散歩道の途中で、思いがけない光景に出会います。
「大丈夫じゃない。起こして」

道路脇で、自転車と一緒に倒れているご年配の女性。最初は状況がつかめず、少し迷いましたが、思い切って声をかけました。
「大丈夫ですか?」返ってきたのは、少し苦しそうな声。
「大丈夫じゃない。起こして」
私はベビーカーを止め、娘を見守りながら女性を抱き起こしました。
そのとき、後ろからきた車が一台、ゆっくり停車しました。数メートル先の安全な場所に止めて、運転手の方が降りてきてくれたのです。
「大丈夫ですか?」そう声をかけながら、一緒に倒れていた女性を支えてくれました。
さらに、「手伝います!」と、通りがかった小学生くらいの女の子が2人、駆け寄ってきました。小さな体で、一生懸命支えようとする姿に、胸がぎゅっとなりました。知らない人同士なのに、迷いなく集まって、自然に助け合う。その場に流れていた空気が、とてもやさしくて、あたたかかったのを今でも覚えています。
「ありがとう」がつないでくれた街

ご年配の女性は「もう大丈夫だから」と言い、ふらふらしながら再び自転車に乗って、そのまま去っていきました。「おばあちゃん、気を付けてよ~」そう大声で叫ぶ小学生2人の言葉にも、振り返ることもなく…。少し心配になりながら、私たちはその女性の後ろ姿を見送りました。
私にも、他の助けてくれた人々にも、ご年配の女性からの感謝の言葉はありませんでした。でも代わりに、なぜか、助けてくれた方たちから、「ありがとう」をもらいました。
「ありがとうね。助けてくれて。お子さんもまだ小さいのに」
車から降りてきてくれた方は、そう私に声をかけた後、ベビーカーで待っていた娘にも、「お嬢ちゃんもありがとうね。おとなしく待っててくれたね~」と、優しく声をかけてくれました。その一言で、胸の奥がじんわりあたたかくなりました。
引っ越してきたばかりで、不安だらけだった私。でもこの出来事をきっかけに、「この街は、あたたかい」と思えるようになりました。
困っている人がいたら、自然と手を差し伸べる人たちがいる街。その空気に触れて、ここで子育てしていけるかもしれない、と少し安心できたのです。
今でも忘れられない、あの日の散歩道ともらった「ありがとう」。いつか娘にも伝えたいなと思っています。知らない人に向けたやさしさが、自分の心をそっと支えることがあるんだよ、って。
(ファンファン福岡公式ライター/yutaka)





