北九州市立美術館で「鉄と美術」にまつわる展覧会。産業と芸術文化が交差するまちの歴史 出来事、作品、人々の熱量がここに

鉄をめぐるひとつの叙事詩のようだった。

1901年、八幡町(現・北九州市八幡東区)に官営八幡製鉄所が誕生して以降、かつて製鉄業の隆盛とともにまちが発展し、そのアイデンティティを元に様々な芸術文化を生んできた現・北九州市という地域。その歴史やストーリーを多様な切り口で紐解く展覧会「鉄と美術 鉄都が紡いだ美の軌跡」が、北九州市立美術館本館で開催されている(2026年3月15日まで)。

目次

「鉄と美術」リポート

明治から現代までの鉄都の歴史を総観する本展において、時代や社会の変遷は目まぐるしく、“鉄”と一口に言っても、時節、登場するそのかたちや意味合い、扱うテーマは多義に渡っている。

展覧会の冒頭では、近代化を象徴する「鉄道」をフォーカス。明治の浮世絵、製鉄所操業開始の翌1902年に製造された鉄レール等を展示し、旧五市(門司、小倉、八幡、戸畑、若松)を貫くテーマとしての「鉄」の物語のはじまりとした

明るく豊かな未来につながる近代化の象徴であった鉄が、戦時下においては、銃や戦闘機をつくる材料にもなる。第二次世界大戦下においては、画家が戦場に赴き、その情景を絵にすることもあった。

(手前)《北九州上空野辺軍曹機の体当りB29二機を撃墜す》
中村研一 1945年 東京国立近代美術館蔵(アメリカ合衆国より無期限貸与)
鉄と戦争について紹介されたコーナー。鉄は武器にもかたちを変えうるという現実が伝えられている

製鉄業という巨大産業は、それ自体、独自の産業構造や文化、風景をかたち作っただけでなく、多様なバックグラウンドを持つ人々を労働者として集め、ときに、そこから多様な個性や才能が生まれた。

各々の作り手が、生活の糧でもあった鉄という素材、製鉄業という仕事に触発され、作品に昇華している点も興味深い。製鉄の際には石炭が必須ということから、筑豊炭田ゆかりの画家の作品も並んでいる。

大正ロマンを代表する竹久夢二も、昭和の名建築の数々で知られる建築家・村野藤吾も、八幡製鉄所で働いた経験を持つ。会場では、その他にも芸術家と製鉄所との関係、そこで生まれたサークル活動等、「鉄」をキーワードに多彩な表現が紹介されている

展示後半では、1970年代のオイルショック以降、製鉄業が衰退してからの北九州市と鉄の関係を紹介。「鉄冷え」の時代に突入して以降も、鉄は土地に根づいた礎であり、時にその用途や役割を変えながらも、アイデンティティのひとつであり続けていることがわかる。

本展の会場である北九州市立美術館が、その土地やコレクションを製鉄の関係遺産から引き継いでいるのは象徴的であるし、1987年、1993年には、民間有志によって「国際鉄鋼彫刻シンポジウム」を開催。当初予算の20倍の費用を費やして奇跡的に実現したという同企画では、かつて産業の原料であった「鉄」という素材、そこで培われた技術力やネットワークが、現代美術というフィールドで花開く大きな転機点となった。

展示のエピローグでは、現在において、鉄という素材をテーマに選び、北九州の歴史と切り離せない表現活動を続けるふたりの美術家、母里聖徳と山本聖子の作品も紹介されている。

国際鉄鋼彫刻シンポジウムの企画者であり、出展作家でもあった母里聖徳の鉄の彫刻が並ぶ展示会場。後方の壁面には、同企画のために制作され、現在も北九州市立美術館の屋外に設置されているフランク・ステラの巨大作《八幡ワークス》の制作過程を記録した四宮佑次の写真作品が並ぶ

鉄や製鉄業の特徴でもあるのだろうか、会場ではダイナミズム溢れる表現、ものづくりの醍醐味を伝える展示物が数多く並ぶ。と同時に、史実や作品のそばには常に多くの個人の存在があり、随所に繊細な機微やあたたかさが感じられたというのが印象的であった。北九州市における鉄を巡る物語は、奥深く、果てしない。

鉄と美術 鉄都が紡いだ美の軌跡 開催概要

■日時:2026年1月4日(日)~3月15日(日) 9:30~17:30
※月曜日(ただし月曜日が祝日または振替休日の場合は開館し、翌火曜日が休館)
※入館は17:00まで
■会場:北九州市立美術館 本館(北九州市戸畑区西鞘ケ谷町21番1号)
■観覧料:一般1,500円、高大生800円、小中生600円
■主催:鉄と美術展実行委員会(北九州市立美術館、読売新聞社)
■問い合わせ:TEL:093-882-7777(北九州市立美術館)
※関連イベント、割引等の詳細については公式HPをご確認ください。
公式HPはこちら https://kmma.jp/exhibition/ironandart/

※九州・山口の展覧会情報やアート情報を発信するWEBマガジン「ARTNE」 https://artne.jp/

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