福岡を代表する銘菓・明月堂の「博多通りもん」。福岡にゆかりのある人の多くが、一度と言わず食べたことがあるであろうし、そのTVCMについても、目にしたことがあるだろう。ただ、そのCMシリーズの中でも代表的ではないかと考えられる「櫛田神社・好いとう編」について、思いもよらぬ疑義が発生した。
博多通りもん TVCM「櫛田神社・好いとう編」とは?
CMには複数バージョンがあるが、そのほとんどが長谷川法世先生と、先生が描かれた「博多っ子純情」のキャラクターのやりとりによって構成される。中でも有名なものが、こちら「櫛田神社・好いとう編」ではなかろうか。
テキストに落とし込んでみると、下記のとおりである。
(先生)「お櫛田さんになんばお願いしたとね?」
(少女)「そいわ~・・・・」
(先生)「顔ば赤こうして」
(少女)「好いとうと・・・」
(少年)「俺を!?」
(少女)「通りもんたいっ!」
BGM:「傑作饅頭~~博多!通りもん~ ♪」
櫛田神社でお参りをしている3人(法世先生と少年・少女)が交わす博多弁でのやりとりだ。
真剣にお参りしている少女に対し「なにをお願いしてるのかい?」と法世先生が訪ねたところ、少女は顔を赤らめながら「好いとうと(好きなの)・・・」と答える。その赤らんだ顔に、きっと少女が恋をしているのだろうと視聴者に察知させる。
それに対し、デリカシーのない少年が「俺のこと?」と食いつき、「違うわよ!博多とおりもんのことよ!」と少女が返し、CMは終わる。なんとも博多らしいCMであり、福岡を代表するローカルCMと言っても過言ではないでしょう。
しかし、ある日、このCMを一緒に見ていた、私の長男(中2)の言葉に耳を疑った。
「なんでこのCMっていきなり水筒の話が出てくるん?」
最初は長男が何を言っているのかちょっとわからなかったが、話を聞いていると、このCMにおける「好いとうと」という博多弁のセリフを「好きなの」と捉えておらず、「水筒と」と思い込んでいるようだ。
「水筒と?」どういうことだ・・・「& 水筒?」「With 水筒?」

私も妻も出身が福岡ではないので、コテコテの福岡の方言は使わないが、長男は幼少期より福岡育ちである。それでも周囲の友達も含めて、コテコテの方言は使ってないように見受けられる。その中で「好いとうと」という語彙がなく、意味が通じていないようだ。
「しかしお前、文脈的に「好いとうと」ってわかるだろ!仮に『水筒と』とだとして、前後つながらんやんか!」と長男を詰めると

「女子は水筒が好きで水筒がほしいと祈っていて、それに対して男の子が『水筒に加えて、俺のことも祈ってるの?』って聞いてるのかなと。変な話やなとは思ってたけど。」とのことだった。「水筒 & 俺のこと」だった。
その話の流れだと「通りもんたいっ!」の着地も相当意味わからんやないか・・・と戸惑っていると、そこに次男(小4)がやってきたので彼にも聞いてみた。
「ああ、通りもんのCMの『水筒と』やろ?水筒と男の子のことが好きなんやろ?」
こいつも「水筒と」だと思っている!そんな馬鹿な・・・。
うちの息子たちがアホなのかと思いつつ、一つの疑念が頭をよぎった。
我が家のみならず今どきの福岡の子ども「好いとうと」理解できてない?
我が家の子どもだけでなく、最近の福岡の子どもはあまり方言を使わないのではないだろうか。博多部周辺の子は別として、「好いとう」「好いとうと」というコテコテの博多弁はなおさら使わないし、会話の中で耳にする機会もなく、語彙としてインプットされてないのではないか。
そこで私は、息子たちに「学校の友達に、通りもんのCMの「すいとうと」をどういう意味だと思っているか聞いてきてくれ」と頼んだ。
絶賛反抗期の長男からは「嫌だ、ダルい」と秒で却下されたが、次男に報酬(10件以上集めたら300円)をちらつかせたところ、快諾。学校で同級生である小学4年生からアンケートをとってくれることになった。
【調査結果】小学生たちは「好いとうと」を正しく理解しているのか、それとも・・・
結果が気になり、夜帰宅すると次男を捕まえ「結果、どうだった?すいとうとの結果」と確認するも「あ、忘れとった・・・」というやりとりが数日続いたが、打診から4日目、無事に結果を記したメモを渡してくれた。
サンプルはオーダーより少ない9件ではあったが、その内容について、ここでランキング形式で皆さんに共有したい。まずは、一番多かった回答。
1位:「水筒と」(5人)
恐れていたというか、予想が的中した結果となった。今回聞いた中では、最も多くの子どもたちが「水筒の話」として、お櫛田さんでのやりとりを見ていたのだ。

前後の文脈的にいきなり水筒が出てくるのはおかしいのだが、一方で彼らは「好いとうと」という語彙がないのであろうから「水筒と」で致し方ないとも言えよう。しょっちゅう流れるあのCMを見る度に、お櫛田さんにお願いするほど水筒を欲しがり、表情を赤らめる少女が出てくる不思議なCMとして、なんとなく受け止めているのであろう。
2位:「好いとうと」(2人)
9人中、2人の子どもが、本来の意味である「好いとうと」と回答。「水筒と」の半分以下の割合となっており、多数決だと「水筒と」にとってかわられる結果となった。「好いとうと」が間違いなく正答ではあるのだが、もはや子どもたちにとってはマジョリティではないのだ。
同率3位:「空いとうと」(1人)
ある子は「話の流れ的に『おなかが空いている』の『空いとうと』だと思ってた」と回答。これには「なるほど」と納得させられる。突拍子もない「水筒」と比較すると、まだつながりもある気がする。お腹が空いているから、お櫛田さんにお願いをして、最終的に通りもんを食べたがっている、と考えると、CMの構成としてもスムーズな気もするので、回答した子には一目置く結果となった。
同率3位:「すいとん」(1人)
1人は「『すいとん』と、だと思ってた」との回答だった。お米の代用として戦時中・戦後に配給されていたイメージが強い、あの「すいとん」のようだ。

なんでお櫛田さんにすいとんをお願いするのか、全くわからなかったが、次男曰く「この前給食に『すいとん汁』がでたからじゃないかな?」とのこと。いや、給食に出たからって、お櫛田さんにお願いはしないでしょうと思ったが、想像の斜め上をいく回答で、もはやクリエイティブだと感じた。
あなたのお子さんも「水筒と」と思っているやも知れない・・・・
以上、サンプル数がごく限定されているので正式な「統計」とは呼べないが、我ながら示唆に富む調査となったような気がしている。

時代が変わり、かつてと比べるとローカルも標準化が進み、方言を使うことも前ほどなくなってきている。ある意味自然なことかもしれない。
しかし、同じCMを見ているはずの子どもが、全く違った視点で内容を捉えていたのはなかなかのギャップであり、衝撃であった。
お子さんがいらっしゃるご家庭の方は、このCMが流れてきたら、試しに「好いとうと ってどういう意味かわかるよね?」と、聞いてみていただきたい。
それでは、最後にこちらのBGMで本稿を締めたいと思います。
「傑作饅頭~~博多!通りもん~ ♪」

参考サイト:「博多通りもん」の明月堂【公式】& オンラインショップ https://www.meigetsudo.co.jp/





