夫と結婚を意識しはじめた頃、地方から義弟の大学受験に向けての学校見学で上京していた義母と急きょ食事をすることになりました。初めての対面に緊張し、時間がない中精一杯の準備をして向かった私。しかし、背伸びをして選んだレストランで待っていたのは、義母のあまりにも無神経な一言でした。せっかくの場を凍りつかせた義母の暴走を、鮮やかに止めてくれたのは…?
はじめまして、こんにちは。
その日私と夫がいつもの駅ビルで買い物をしていると、義母から連絡がありました。義弟の学校見学で上京していた義母に少し時間ができたので、たまたま近くにいた私たちと急きょ会うことになりました。
私は服装やメイク、髪型がおかしくないかなど、身なりを気にしながら、少し緊張して義母との待ち合わせの場所へ向かいました。
「こんにちは、初めまして!」と笑顔で最初の挨拶をしました。
対する義母は「こんにちは~、どうも~」と、笑顔で挨拶をしてくれました。夫の実家は工場を経営しています。
よくテレビドラマに出てくる、社員にお菓子とお茶を配りながら談笑をする、ひざ下丈のスカートにカーディガンを羽織っているような、感じのいい女性を想像していました。
実際には想像とは少し違い、カジュアルなパンツスタイルの義母と対面しました。目の奥までは笑っていないように見える表情に緊張感を覚えつつ、食事する場所を探し歩きはじめました。
緊張感の先にあったもの
少し歩いた先で、何度か利用したことのある落ち着いたレストランを見つけ、そこで食事をすることにしました。少し高めの値段設定で、当時の私達には少し背伸びをしたお店です。
席に着きお料理を注文しようとすると、「私はなんでもいいから」と私達に注文を委ねる義母。何を食べても美味しいお店だったので、嫌いなものはないか確認をとり夫と二人で注文を済ませました。私は、出てきたお料理をいつも通り美味しくいただきました。義母は表情を変えずにお料理を口に運びます。
夫は口数の多い方ではないので、夫と同じように口数の少ない義母に疑問を抱くことはありませんでした。次の予定もあったので、食事を済ませお店を出ることに。
初対面の義母が放った、あまりに無慈悲な一言

帰り支度をして先へ進む夫に続いて、私は義母の半歩後ろを歩きながら出口へ向かいました。義母は「ごちそうさま」と私の方を振り向きながら言いました。少し打ち解けたかのように見えた義母の顔を見て、ほっとしました。ですが、その後にまた言葉を続けます。
「やっぱりダメだわ」
状況が呑み込めずに、ぽかんとする私に、もう一言。
「こっちのご飯は高いばっかりで、何を食べても本当にまずいね」
私は言葉を失い凍りつきました。
ダメと言うのは、私のことなのか、料理のことなのか判断することもできません。必死に冷静さを取り戻そうと、動かない頭を必死に動かします。やっとの思いで絞り出した、「すみません」の一言にかぶせるように、義母は続けます。
「○○(義母の住んでいる地域)は何食べてもおいしいのよ」
!?
百歩譲って義母の舌が三ツ星レストランのシェフのように肥えていたとしても、今ここで発言するべき言葉なのでしょうか?その時の私はまるで鳩が豆鉄砲を食ったかのような顔をしていたと思います。
私を救ってくれたご夫人の笑顔

ちょうどその時、私達より少し早く食事を終えた穏やかな雰囲気のご夫婦がお会計をしていました。楽しそうに会話をしながらお会計を済ませると、ご主人がくるりとこちらに身体の向きを変え、「今日も美味しかったね」とご夫人に話しかけます。すると、ご夫人は「そうね、ここでの食事はいつ来ても楽しいわ」と私と義母にニコっと微笑みながら去って行きました。
まるで「感謝の気持ちを忘れずに今日のこの日を穏やかに過ごしましょう」と全てを諭してくれたかのような、ご夫人の素敵な笑顔に、心から救われたような気持になりました。私は感謝の意を込めて、ご夫人の後ろ姿に思わず頭を下げました。
その後、顔を真っ赤にしてトイレに向かう義母を見て、張りつめていた緊張が解け、やっと肩の力が抜けました。いつ、なんどきでもお天道様は見てくれているものなのですね。
あれから、時は経ちましたが、今も変わらず傲慢な態度の義母を反面教師に、あの時のご夫人をお手本に、私は強く生きています。
(ファンファン福岡公式ライター/unagi)





