新・祖母が語った不思議な話:その肆拾弐(42)「あわを食う」

明治生まれの祖母のちょっと怖くて不思議な思い出をまとめた連載「祖母が語った不思議な話」正続編終了時に、多くの方から続編を望まれる声をいただきました。御期待に応えた第3シリーズです。

イラスト:チョコ太郎(協力:猫チョコ製作所)

「『あわをくう』ってどういうこと?」

TVの時代劇を見ていて、出てきた台詞(せりふ)の意味が分からず、一緒に炬燵(こたつ)に入って見ていた祖母に尋ねた。
小学一年生の冬だった。

「『泡を食う』というのは大変慌てるということ。『泡立つ』が長い間に変化して『あわてる』になったという説もあるよ」
「へえ! そうなんだ」
「あわをくう…か。一つお話を思いだした。私のお父さんの話。聞く?」
「うん! 聞く聞く!」

TVを消して祖母の話を待った。

……………………………………………………………………

【祖母の話】

「お〜い! みんな起きろ!」
秋の夜中三時ごろ、庭で大声が聞こえた
従兄弟の村に収穫の手伝いに出掛け、泊まってくるはずだった祖母の父だ。

「どうされたんです? お泊まりになられるのではなかったのですか?」
「説明より先に皆でこれを食べんといかんのじゃ! 子どもたちも起こせ!」
父はひどく慌てている。

寝ぼけ眼で祖母と兄が起きだすと箱膳(四角い一人用のお膳)の上に黄色いおにぎりが山と積まれている。

「これを残らず食べるのだ」
「今からですか?」
「そうだ。日が昇らんうちに全部食べきるのだ。わけは後で話す。さあ!」有無を言わせない父の様子に家族は目を白黒させながら、なんとか平らげた。

それを見てやっと落ち着いた父は話し始めた。

「伊三郎(父の従兄弟)の家に着いたらな、誰もおらん。はて、どこに行ったじゃろうと村を回ると村長の家の庭に皆集まっておった。蓙(ござ)にの上に座り、皆黙々と握り飯を食っとる。見回すと伊三郎を見つけた。一心不乱に握り飯を食っとるところをつかまえて庭の端まで連れて行き、何をやっとるのか聞いたんじゃ」
父は茶を一口飲んだ。


「伊三郎が言うにはな『作付けすれば凶事があると皆恐れて入らん土地・イラズがあるのは知っとるな。今年に入って他所から越してきた若夫婦がそれを知らんであそこにな粟(あわ)を植えたんじゃ。一本が四股五股になっとるものすごい実り様だったそうでそれを収穫、籾殻を取るところまでやったがあまりの量。皆に分けようとしていたところイラズで収穫したもんじゃと分かってな。どうしたら良いかと皆で神主さんに尋ねたら、“代々伝えられている話がある。イラズに生えた作物は喰わぬ人が来る前に全て食べつくさんと、この村のもんが連れて行かれる”と言うんじゃ』」
茶をもう一口。

「“喰わぬ人”とはなんじゃと聞くと伊三郎が答えた。『神主さんは“死人(しびと)のことじゃ。収穫してから九日の日が昇らんうちに食べつくさんといかん”という。若夫婦に尋ねると明日が九日目、さあ大変だと全部の粟を炊いて握り飯にし、村中総出で食っとるとこじゃ』」
また茶を一口。

「よし、儂も手伝おう! と食べ始めたはいいが、粟だけの握り飯はなかなか喉を通らん。それで食べきれんかった分を持ち帰ったちゅうわけだ」
「そうでしたか…しかし何故食べてしまわないといけないのでしょうね?」と母が聞く。
「残しておくと『食いもんが残っておる、仲間がおる』と喰わぬ人が来るんじゃと。屍人は仲間を欲しがるというからな」
父は茶を飲み干した。

……………………………………………………………………

「あわをくって、あわをくったんだね。ちょっとこわいけどおもしろかった」
「上手いこと言うわねぇ!」
「あわのおにぎりっておいしかった?」
「少しお米も混ぜていたけどもうすっかり冷えていて、ただただごつごつした感じだったよ」
祖母は苦笑した。

チョコ太郎より

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