新・祖母が語った不思議な話:その参拾捌(38)「チャボ」

明治生まれの祖母のちょっと怖くて不思議な思い出をまとめた連載「祖母が語った不思議な話」正続編終了時に、多くの方から続編を望まれる声をいただきました。御期待に応えた第3シリーズです。

イラスト:チョコ太郎(協力:猫チョコ製作所)

「かわいいね!」
小学二年生の秋の朝、祖母がかわいがっているチャボに餌をやっているのを見ていた。

「おとなしくて賢くて人によく懐くし、他の鳥のひなを育ててやったりもするのよ」
「へえ!でも卵はあんまりうまないね。小さいし」
「そうだね…あ、私のおばあさんから聞いたチャボの話があるよ」
「わぁ、聞きたい…けど、学校に行かなきゃ」
「じゃあ帰ってきてからね」
「うん!」

そして放課後。
友人の誘いを断り、全力疾走で家を目指した。


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【祖母の話】

江戸時代末期、おばあさんが住んでいた漁村で起こった出来事。
秋の終わり、暗いうちから舟を出した漁師たちは海が荒れはじめたので皆引き上げてきた。
ただ一人、小吉という若い漁師だけが戻って来ない。
それから海は荒れに荒れた。

波が収まった三日目、舟を出し皆で探したがまるで見つからない。
その翌日も日暮れまで舟を出したが、どの方向を探せば良いかすら分からず戻ることになった。
翌朝、網元のところで話し合ったが手掛かりもなく、「これはもう…」皆あきらめかけていたその時。

「コッコッコッコッ」

戸口で鶏が鳴いた。
小吉の飼っているチャボだ。
卵もあまり産まないし他のチャボと比べても体が小さい。夜中に鳴くのも不吉だと捌かれようとしていたのを小吉が貰い受け、リンと名付けてかわいがっていたチャボだった。

皆が表に出るとリンは案内するように歩き始めた。
西の浜までやって来ると「舟を出してください」と言うように何度も頭を上下する。
もしやと思い舟を出そうとしているとリンが乗り込んできた。
他の皆もそれに続いた。

沖に出ると舳先に座っていたリンが南を向いて「コッコッコッコッ」と鳴く。
物は試しと鶏の向く方向に舟を漕ぎ進めると今度は東を向いて「コッコッコッコッ」と鳴く。
夕陽が海を真っ赤に染めるまでリンの案内に従って漕ぐと、嵐に砕かれた舟の破片がいくつも浮いているのを見つけた。
リンは立ち上がると背伸びして、ある方向に向かってひときわ大きな声で「コッコッコッコッ」と鳴いた。
棚板につかまり波間に浮いている小吉がいた。
引き上げると目を開けた。
生きている!
浜に帰るまでリンは小吉に寄り添っていた。

「喉は乾く、腹は減る、力も出ん…もう駄目かと諦めかける度に女子(おなご)の声がするんじゃ『もうすぐ行くからあきらめてはいけません』とな。それだけを頼りになんとか浮いておったら舟が向かってくるのが見えた。舳先には髪も着物も真っ白な女子が立っとる。舟に女子とは?…と思うたら女子は消え、お前たちが来てくれたんじゃ。女子のおった場所にはこいつが座っとった」
三日ほどして起き上がれるようになった小吉はリンの頭をなでながらそう言った。

「きっとお前が漂流しとる場所が分かったんじゃな。命の恩人じゃ」
チャボのリンは村人からも大切にされ、産んだ卵の殻は皆が大事に持ち帰り舟のおまもりにした。

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「チャボってふしぎな力があるのかな?」
「昔は海で亡くなった人を探すのに鶏を使ったっていうのも聞いたことがあるよ。チャボに限らず鶏は人間との付き合いが長いから不思議な話も多いね。思い出したらまた話してあげよう」
「うん!」
「コッコッコッコッ」
「あっ、チャボも聞きたいって!」
「あら」
頭を上下するチャボを見ながら祖母は微笑んだ。

チョコ太郎より

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