静まり返った病棟、ひんやりと冷える空気。夜の病院は昼間とはまったく違う顔を持っています。新米看護師だった私は夜勤中に思わぬ体験をしました。現実では説明のできない”不思議な存在”との遭遇。あのときの恐怖と不思議な気持ちは今でも忘れられません。現実なのか夢なのかわからないような体験についてお話したいと思います。
日中とはまるで異なる顔をもつ病棟で感じた、異様な空気

新卒で総合病院に入職しまだ間のない頃、私は不慣れながら夜勤をしていました。看護業務や物品の場所、患者さんの名前と顔を覚えるのも精一杯で、ようやく一緒に働くスタッフの名前と顔を覚え始めたところでした。
夜の病院はものすごく静かで不気味な空間です。慣れないせいか、自分の足音や心臓の鼓動すらものすごく大きく聞こえる感じがしました。静けさのなか急に鳴り出すナースコールに驚かされることも。
バタバタした夜勤でしたが、ひと息つき、トイレに行きたくなったので向かいました。職員のトイレは病棟の端っこの少し暗いところにありました。しんと静まり返った病棟の中で、やたらと自分の足音が大きく響くように感じました。日中でも薄暗く気味悪いのですが、夜になるとさらに怖さが増すのです。夜勤はまだ数回しかしたことがありませんでしたが、夜勤のたびにトイレに行くのが怖かったのを今でも覚えています。
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トイレで出会った看護師のまさかの正体とは!?

トイレに向かうと、なんとなく空気がひんやりしていて、なぜか急に背筋がゾクゾクとしました。トイレを済ませ洗面所で手を洗いながら、慣れない夜勤の疲れを感じていました。そんななか、突然誰かがトイレに入ってきました。
見慣れない顔で長い髪を一つにまとめた清潔感のある看護師です。私が勤務していた病棟は一つのフロアに別の病棟があったので、そっちの病棟の看護師がトイレに来たのかなと思い、挨拶しました。
「お疲れ様です」というと、相手も笑顔で「お疲れ様です」と答えじっと私を見つめていました。
その笑顔は微笑んでいるのに、なぜかどことなく寂しい雰囲気を含んだような感じがして私は思わず息を呑みました。ふわりとした空気をまとっていて、不思議な感じがしたのを覚えています。挨拶以外の言葉は交わしませんでしたが、その瞬間だけ空気が変わったような気がして、胸の奥にザワザワする感覚が残りました。
私はナースステーションへ戻り、先輩看護師にさっきトイレで会った看護師の話をしました。どのような容姿だったかを聞かれ答えると、先輩は「それ◯◯さんだね。その人ね、もう亡くなってるのよ。去年病気で」と言うのです。
私がトイレで出会った看護師はその先輩の同期の方で、なんと去年病気で亡くなったのだそう。仕事が大好きでとても熱心で患者さんからも大変慕われていた看護師。生前、看護師の仕事が続けられない無念の気持ちを先輩にも話していたそうです。
「看護が大好きだったから今も大好きな場所にふと現れるんだろうね。私はまだ会ったことがないのよ」と先輩は少し寂しげに言いました。
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もともと怖がりだったのにさらにトイレが怖くなったわけ

幽霊というと足がないとか、長い髪の毛で顔が隠れているイメージを持っていた私。しかしあの日の出来事は自分の常識を大きく覆すものでした。夜勤中、トイレで出会った人はこの世に存在しない人とは思えないほど、クリアで普通の人間に見えたのです。
こんな不思議なことがあるものかと驚きで息が詰まるようでしたが、思い返してみてもどことなく浮遊感のある雰囲気と、寂しさを含んだ笑顔が現実のものではないことを否応なしに感じさせました。
あの看護師の顔は今でも私の頭から離れません。私は子どもの頃から怖がりでしたが、あの体験以来、私は夜のトイレが今まで以上に怖くなってしまいました。あのときの看護師のことを考えると背筋がゾクリとします。
(ファンファン福岡公式ライター/つきのあ)



