ある日、公園で遊んでいた私と息子。公園でのマナーにモヤモヤするばかりで行動に移せない私に代わり、場の雰囲気を変えたのは2歳半の息子のひと言でした。その声が響いた瞬間周りの空気が変わったのです…。
公園でのモヤモヤ

休日の午後、公園はにぎわっていました。すべり台の列に並ぶと、楽しそうな声や走り回る足音があちこちから聞こえてきます。私と息子も順番を待っていましたが、ふと横から、5歳くらいの男の子が割り込んできました。思わず「え?」と声が出そうになりましたが、その子の親もすぐそばにいて、注意する勇気が出ません。
胸の奥に小さなモヤモヤを抱えたまま、私はただ見守るしかありませんでした。公園にはレジャーシートを広げる家族や、シャボン玉を追いかける子どもたちの姿。笑い声が混じる中、私の心だけは「順番を守ろうね」と言えず小さなモヤモヤで曇っていました。
同じ子どもが2回目の割り込み!

抜かされても息子は黙ったまま、並び直しました。小さな顔は少しこわばっていて、順番を守ってほしい気持ちが表情に出ています。やがて小さな声で
「じゅんばんこ、しようね」とつぶやきました。その声はか細いけれど、はっきりと聞こえました。
私は胸がぎゅっとして、驚きました。まだ2歳半なのに、自分の気持ちを抑えながらも「正しいこと」を伝えようとする姿がそこにありました。ところがまた同じ子が、当然のように列へ割り込んできました。
私は思わず固まってしまい、今度こそ声をかけなきゃと思いながらも、その子の親が近くにいることを気にしてまた言えませんでした。そんな私の横で、息子の表情が一変。小さな体をぐっと前に向けると、力いっぱいの声でこう言ったのです。
「じゅんばんこね!だーめーよ!!」
公園に響くその声に、割り込んだ子はきょとんとした顔をして、すぐに後ろへ戻っていきました。周りの子どもたちも静かになり、列は自然と整いました。大人たちも何となく視線を向け、空気が少し変わったのを感じました。私は驚きながらも、誇らしい気持ちでいっぱいになりました。自分では言えなかったことを、息子が代わりにやってのけたのです。
息子の声が響いた瞬間、私は心臓がドクンと大きく跳ねるのを感じました。場の空気が一瞬で変わっていく様子を、すぐそばで体験するなんて思ってもみませんでした。小さな子どもの言葉が、こんなにも周囲を動かすなんて…私はただ呆然としながらも、胸の奥がじんわり熱くなっていきました。
小さなヒーローに救われた私

その後、列は乱れることなく順番に進みました。すべり台を滑り終えた息子は、何事もなかったように笑顔を見せます。私は胸が熱くなり、息子の成長に少し泣きそうになりました。大人でも難しい「正しいことをきちんと伝える」ことを、息子がやり遂げてくれた。その姿は私にとって小さなヒーローそのものでした。
帰り道に手をつないだとき、その小さな手から伝わる温かさが、今日の出来事を忘れられないものにしてくれるように思いました。家へ帰る途中、息子は「すべり台たのしかったね」と何気なく話していました。その無邪気さに思わず笑ってしまいながら、私は心の中で何度も「ありがとう」とつぶやきました。あの日の息子は、まぎれもなく私の小さなヒーローでした。
(ファンファン福岡公式ライター/奈緒)



