今さら 映画「国宝」の感想 ~久留仁譲二の小市民だより~

 このところ、メシの話ばかり書いてきたので、きょうは違うこと書きます。

 映画は時々見る久留仁譲二です。最近ジョージ・クルーニーは作品出てるんですかね。

 「フロム・ダスク・ティル・ドーン」という映画で初めてクルーニーを見て、カッコよさにしびれました。昔ながらの正統派男前の主演作にしては、始まりと終わりがまるで違う、ハチャメチャ展開の不思議な映画でしたが、調べると脚本がクエンティン・タランティーノ。さもありなんでした。

 さて、超話題作の「国宝」を遅まきながら見てきました。

 で、珍しく「感想文」的なことを書きたくなりました。子どもの頃、夏休みの宿題とかで読書感想文を書かされるのはイヤでしたが、今回は自発的に書きたくなるほど、色々思うところがありました。

 これから鑑賞される方もいらっしゃるでしょうから、スジにはほとんどふれずに書きます。

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 まず思ったのが、よくこの「歌舞伎」という題材を映画にしようと思いましたね、というところです。

 長年続く伝統芸能で、極めて閉じられた社会で、芸事にわずかなミスも許さぬ厳しいキビシイ世界だと思いますし、実際そうなんでしょう。だって、俳優としてあれだけ達者で、名門の生まれでもある香川照之(市川中車)ですら、年いってから始めたとはいえ、なかなか評価してもらえないんですからね。

 その難しい世界を役者とはいえ吉澤亮、横浜流星はじめ素人が演じるんですからね。「かくし芸」程度のレベルでは歌舞伎界から猛反発されること請け合いだと思います。

 が、映画での所作や踊りがケチをつけられることなく、絶賛されています。

 いやいや、怖ろしい難事業に取り組んでやり遂げたこと、まさに国宝級です。本物の歌舞伎役者・中村鴈治郎さんのご指導の賜物もありましょう。余談ですが、私昔博多座の舟乗り込みで鴈治郎さんを拝見したような気がします。

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 前の話と関係しますが、同じように感心したのが、原作者の吉田修一さんが歌舞伎界をテーマに小説を書いたというのも畏れ多い所業のように思いました。

 いくらフィクションとはいえ、一つ一つ細かい部分やしきたりとか特有のものの考え方とか中途半端な理解では書けないし、いい加減なことを書いたら、抗議を受けて執筆中止に追い込まれかねない話だと思います。すごく勇気の要る世界に足を踏み入れたなあ、と。

 映画見たあと読もうと、家で買いました。まだ読んでません。上下あったのか、そりゃ上映時間3時間超えるはずです。

 15年前公開の「悪人」も吉田修一原作、李相日監督のコンビでした。悪人は佐賀や長崎、福岡が舞台ということで興味を持ってみましたが、「弱い者が弱い者を傷つけてしまう」哀しい連鎖がなんとも言えない苦い気持ちを呼び起こしました。妻夫木聡の演技もよかったです。妻夫木さんも若ければ、国宝の主役できたかもしれないですね。

 李監督はまだ51歳ということは、悪人のときにはまだ36歳です。才能ある人は若いときからすごいです。

 浅田次郎さんも林真理子さんも絶賛ですか。林さんの「上下巻いっきに読んでしまった」というお言葉。私は「ノルウェイの森」で一回だけ経験しました。だいたい高校生の時に読んでた筒井康隆くらいしか小説はあんまり読まんのですが、ノルウェイの森は電車に乗ってる4時間か5時間で上下読み終えてしまいました。まったくどんな話だったか覚えてませんが。

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 話がそれました。

 渡辺謙演じる、育ての親の歌舞伎役者が厳しく厳しく稽古をつける場面があり、見ているこっちが逃げ出したくなるような気持ちになりますが、この映画を撮っている間、何年何カ月か知りませんけども、ずっとあんなふうに追い詰められながら、歌舞伎の技や振る舞いを身につけていったんだろうなと感じました。

 片やアイリスオーヤマのCMでおちゃらけた芝居もこんな真剣勝負もこなす、役者というのは並みの精神力、根性では務まりません。私も原宿とかでスカウトされなくて良かったとつくづく思います。

 ライバルで盟友を演じた横浜流星にしたって同様の修練をしてきてるんでしょう。その成果が大河ドラマの「べらぼう」に表れているという趣旨のネット記事を読みましたが、きっとそうだと思います。女形と江戸っ子でジャンルは違いますが、粋なしぐさというのは共通してるのかもです。

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 渋さに驚いたのが、極道の親分である主人公の父親を演じた永瀬正敏。私がドラマそんなに見ないせいか、「ションベン・ライダー」(古い!)など昔の青春もの俳優のイメージと小泉今日子の元ダンナくらいしか認識がなかったんですが、気魄に満ちたヤクザ者になり切っていました。今ウィキペディアで調べて知ったんですが、彼は都城出身なんですね。東京の人かと思ってました。

 極道といえば、その親分の息子(主役)も15歳くらいで父親と同じミミズクの刺青を入れるんですが、そのシーン、見るからに痛そうでたまりません。のちに「モンモンを背負った女形」になるわけですが、時々見せる凶暴性、これがいい味出てます。内に秘めた極道の凄みをヤサ男の吉澤亮が体現する、見ものです。

 まだ小説の中身は知りませんが、作家の吉田修一も映画監督の李相日も、「道を極める」というところで、国宝にまで昇り詰めるような(歌舞伎)役者の世界と極道の世界の共通点を表現したかったのでは、と勝手に思っています。

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 あと、渡辺謙の妻で横浜流星の母親を演じた寺島しのぶは、さすが歌舞伎の家の生まれだと思いました。実際は役作りのたまものなのかもしれませんが、適役であることは間違いないでしょう。他に誰か候補はいたんでしょうか。あんまり思いつきません。藤原紀香は片岡愛之助の奥さんですが、ちと違うかな。でも出来るかな。

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 てな感じで超大作の「国宝」。まあ、私が日本舞踊とかに興味がないせいか、最後の方は少しダレた気がしたものの、「見て良かった」と思いました。

 忘れかけてましたが、レジェンド女形役の田中泯の只者じゃなさ感も見ものです。

 今回、天神ソラリアプラザの東宝シネマズ初めて入りました。西鉄福岡駅とか天神バスセンターとかすぐで、場所メチャメチャ便利で良いですね。そういえば昔、そのあたりに「センターシネマ」という二本立て、三本立てのリバイバル上映館がありました。「フットルース」とか見た覚えがあります。

 では、また。

 

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※この記事内容は公開日時点での情報です。

プロフィール

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久留仁譲二

米国の本家と同い年のシニアブロガー。毎晩長いときは30分に及ぶ歯磨きを欠かさない。最近覚えたメルカリへの出品にはまっている。
17年乗った作業用の軽トラックをカッコいいカーキ色の新車に買い替えた。

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