双子の息子が3歳の頃、私と実母の4人で商業施設に行った時の出来事です。二人乗りベビーカーを卒業し、気軽に使える「エスカレーター」に慣れ始めていた時期のこと。しかし、その“慣れ”から、忘れもしない事態が起きたのです。
親も子も緊張するエスカレーター

息子たちとエスカレーターを利用する時には「もうすぐ乗るよ」「せーの!」などと声をかけ、足元に気をつけながら乗り降りするよう心掛けていました。
その日は、双子の弟は私と、双子の兄は実母と手をつないでいました。その日の息子たちは、おばあちゃんとの久しぶりのお出かけがうれしいのか、いつもよりテンションが高く、集中力が切れているように感じていました。
双子の兄が乗りそこなった!

下の階へ移動するため、先に私と双子の弟が下りエスカレーターに乗って間もなく… 後方で声が聞こえました。振り返ると、つないでいた手が離れ、エスカレーターに乗りそこなった双子の兄と、エスカレーターを上ろうとしている実母が!
大泣きする双子の兄から離れていく私たち。慌てる実母に
「危ないから止まって! 落ち着いて!」と叫ぶことしかできない私。騒ぎを心配して双子の兄のまわりに集まってきたお客さんに、実母は
「孫を見ていてもらっていいですか?」と大声で伝え、エスカレーターで降りてきました。
実母はパニックになり、咄嗟に下りエスカレーターを上って、双子の兄のもとへ戻ろうと思ったそう。実母が転倒したり、エスカレーターから滑り落ちたりして、大けがをする可能性もあったと思うと、ゾッとしました。
双子の兄は、床に座り込んで、全フロアに響き渡るくらいの大声で泣きわめき、一時騒然となりました。「手がエスカレーターに巻き込まれたら… その場から動いて落ちてしまったら…」などと、私の頭の中では、最悪なことがグルグル! 2階から1階へたどり着くまでの時間は、まるでスローモーションのように、とても長く感じました。
大泣きする息子を救ったのは…

1階につき、双子の弟を実母に託したら、私が双子の兄のもとへ向かおうとしていたその時でした。60代くらいのおじさんが双子の兄をヒョイと抱っこしてエスカレーターに乗せて、一緒に降りてきてくれたのです。見ず知らずの15kg以上ある子どもを抱っこして「下りエスカレーター」に乗ることは、とても勇気のいることだったと思います。
抱っこの仕方が慣れている様子だったので、きっとお孫さんがいる方なんだろうなぁ… と感じました。1階で待っている私たちに双子の兄を届けてくれたおじさんに、「ありがとうございます!」とお礼を言うと、少し恥ずかしそうに笑顔をうかべ、足早にその場を去っていきました。
大勢の人が集まり心配して見守っている中で、そのような親切な方がいたことに驚くと共に、その勇気ある行動に心から感謝の気持ちでいっぱいでした。私も実母も、心臓のドキドキがしばらく収まらず「もう少ししっかりとお礼を伝えたかったね」と、あとで話しました。
ケガがなくて本当によかったですが、その日以降、しばらくはエスカレーターを避け「階段」を使用したのは、言うまでもありません。また、この経験をしてからは、エスカレーターでは必ず「子どもが乗ったのを確認してから、大人が乗ること」を強く意識するようになりました。
エスカレーターにも慣れてきて、ちょっと気を抜いた一瞬の出来事でした。今でも、エスカレーターに乗ると「初心にかえることの大切さ」を思い出して、胸がギュッと締めつけられるような気持ちになります。
(ファンファン福岡公式ライター/いと)


