私には息子が1人います。これは息子が4歳のころ、義父母と私の両親の両家でテーマパークに出かけたときのこと。息子の思いがけない一言が忘れられない思い出をつくってくれたお話です。
両家集合の特別な一日

わが家は義実家から歩いて行ける距離にあり、日頃から義父母とおでかけをしたり夕食を一緒に食べたりなど交流が盛んです。息子にとって「じぃじ」「ばぁば」といえば、いつも会う義父母を指すのが当たり前でした。
一方、私の実家は遠方で、年に数回会えるかどうかですが、会えば私の両親も精一杯の愛情を注いでくれます。
ある年の連休、私の実家への帰省の途中で、両家の祖父母が合流しテーマパークへ行くことに。ちょうど両家の中間地点にあり、息子の思い出作りにぴったりでした。義父母と私の両親が一堂に会する、ちょっと特別な一日が始まりました。
はしゃぐ息子と笑顔の祖父母たち

久しぶりのテーマパークに、息子は朝から大興奮。走り出しそうな勢いで入園ゲートをくぐりました。
アトラクションを楽しみながら、義母と手をつなぎ、次は私の母の手を引いてと、まるで「両ばぁば」の間を行き来するかのように園内を巡ります。祖父母たちも自然と笑顔になり、私もその光景に目を細めていました。
夢中で遊んでいた息子が、ようやく
「ちょっと休む」と言い出した頃。私たちは木陰のベンチを見つけ、水分補給をすることにしました。ちょうど義母がトイレに立ち、私の母と私、そして息子の3人で腰を下ろしていたときのことです。
「本当のばぁばを呼んだの!」に場が凍る

「ばぁば!」突然、息子が不安げな声で叫びました。すぐ隣にいた私の母が、
「はぁい」と優しく応えたその瞬間。
「違う! 本当のばぁばを呼んだの! 〇〇くんの本当のばぁば~!」まさかの発言に、あたりが一気に静まり返りました。
ちょうど義母がトイレから戻ってくるところで、その声を聞いて小走りで近づいてきます。
「どうしたの? 何かあった?」と、息子の顔をのぞき込む義母。私はというと内心ヒヤヒヤ。冷や汗がどっと出て、心臓からバクバクと音が聞こえる気がしました。事情を察した義母もきまり悪げに視線をさまよわせるばかり。
一方、私の母はといえば、ちょっと苦笑いを浮かべつつ、私と息子を交互に見て
「じゃぁ、このばぁばはにせものかな?」とおどけてくれました。表情はやわらかく、気まずさを笑いに変えてくれようとしているのがわかりました。
もし、「本当じゃないばぁば」が義母のほうだったら… きっと私はもっと焦っていたと思います。実母だからこそ、あの場を笑って受け流してくれたのだと今でも感謝しています。
「〇〇くんには、ばぁばが2人いるのよ。どっちも本当のばぁばなの」と、何度も何度も説明しました。でも息子は首をかしげて納得がいかない様子。頭の中では「パパとママは1人ずつ」「じぃじとばぁばも1人ずつ」という構図が、しっかり完成していたのです。
実家に着いた後、息子の中でなぜかブームになったのが、「にせもののばぁば(じぃじ)」という言葉。私の母に
「本当じゃない方のばぁば〜」と呼ぶたびに、母は
「はいはい、にせもののばぁばですよ〜」と笑って応じてくれました。
子どもの言葉は家族の宝物
今ではすっかりネタ扱い。「本物のばぁば事件」として、帰省のたびに話題にのぼる鉄板エピソードです。子どもの言葉は、時に大人の常識を軽々と飛び越えてきます。無邪気なひと言に、笑うしかないけれど内心焦ることも…。子育てはそんな瞬間の連続でした。
けれど、家族だから笑えたのも事実。あの「本物のばぁば事件」も、いまではわが家の大切な思い出のひとつです。
(ファンファン福岡公式ライター/蕗野薹子)


