ランドセル姿も初々しい小学1年生の息子。ある日の電車通学中、目の前の大人が無防備に放った「くしゃみ」が彼を直撃します。静まり返る車内で息子が放った、大人顔負けの鋭い一喝とは?勇気ある行動への誇らしさと、親としての複雑な心境を綴った実体験エピソードです。
ランドセルが歩いているような小1、一人で電車通学を頑張る毎日

息子が小学1年生だった頃のことです。当時の息子は、まだ体が小さく後ろから見ると「ランドセルが歩いている」ような愛らしい姿でした。学校までは、徒歩の時間も含めて片道30分ほどの電車通学。6歳の子どもにとっては毎日が大冒険のような道のりです。
「無事に学校へ着いただろうか」
「変な人に声をかけられていないだろうか…。」
私は毎日、無事に帰宅するまで落ち着かない日々を過ごしていました。
「いってらっしゃい」と送り出すたびに、小さな背中が角を曲がって見えなくなるまで、祈るような気持ちでずっと目で追ってしまう。なんとも言えない切ない気持ちを今でも鮮明に覚えています。
逃げ場のない満員電車、不意に起きたハプニング

その事件が起きたのは、朝の通勤ラッシュ時のことでした。車内は独特の静けさが漂う、かなり混雑した空間だったと思います。まだ背が低く、高い位置にあるつり革にはとうてい手が届かない息子は、どこにもつかまることができず踏ん張って立っていました。
そんな彼の目の前に立っていたのは、スーツ姿のサラリーマン風の男性。その時、逃げ場のない車内で最悪のハプニングが起きました。目の前の男性が口元に手も当てず、至近距離にいた息子の顔の方を向いて、思いきり「くしゃみ」をしたのです。
たとえ大人であっても、知らない人のくしゃみをまともに顔に受けるのは耐えがたい不快感があります。ましてや、幼い子供にとってはパニックになってもおかしくないショッキングな出来事だったでしょう。
静まり返る車内に響いた一喝

あまりの出来事に驚いて泣き出してしまうか、ショックで固まってしまうかと思いきや、その直後の息子の行動は、私の想像をはるかに超えるものでした。息子は男性に、こう言い放ったというのです。
「あなた、何を考えているんですか!」
静まり返った車内に、子どもの怒鳴り声が響き渡ったことでしょう。無防備にくしゃみをした男性も、まさかこんな小さな子どもに、公共の面前でこれほど鋭く指摘されるとは思ってもみなかったと思います。バツが悪かったのでしょう、男性は何も言い返さなかったそうです。
息子は急いで電車を降りると、駅のトイレへ駆け込みました。そして、顔をバシャバシャと、何度も洗ったといいます。彼なりに必死で「不快な出来事」を洗い流そうとしていたのでしょう。その姿を想像するだけで、胸が締め付けられるような切ない気持ちでいっぱいになりました。
息子の成長への誇りと、母が抱いた「ヒヤリ」とする本音
学校から帰宅するなり、息子は興奮冷めやらぬ様子で駆け寄ってきました。
「ねえ、お母さん聞いてよ!」
その一部始終を聞いた私は、言葉を失うほど驚愕しました。
その光景を思い浮かべると、車内の人たちの視線が一斉に二人へ向いたであろう緊張感が伝わってきます。息子が感じたであろう驚きや怒り。そして、大勢の大人がいる中で声を上げた彼の勇気。
一方で、親としては「もし相手が逆上したら……」と、後から背筋が凍るような思いもしました。小学生に一喝されて逆ギレする大人がいてもおかしくない世の中です。何事もなく帰ってきてくれたことに心からホッとしました。
小さなわが子の中に、これほどまでに毅然とした強さが育っていたこと。それを知ったとき、心配していた「幼い子ども」は、いつの間にか一人の「人間」として歩き始めているのだと、誇らしい気持ちで胸がいっぱいになりました。
大人になった今、ふと思うこと
月日は流れ、息子は成人し、毎日電車で通勤しています。当時の出来事は、おそらく本人も覚えていないでしょう。
しかし、大人になった今の彼を見ていても、もし同じようなハプニングが起きたら……きっとあの時と同じように、毅然とした態度で「あなた、何を考えているんですか!」と周囲の空気を凍らせるのではないか。そんな想像をしながら、今日も私は玄関で大きく成長した息子の出勤を見送っています。
(ファンファン福岡公式ライター/hitoyume)





