明治生まれの祖母のちょっと怖くて不思議な思い出をまとめた連載「祖母が語った不思議な話」正続編終了時に、多くの方から続編を望まれる声をいただきました。御期待に応えた第3シリーズです。

小学1年生の6月、プール授業の準備をしていた。
側で見ていた祖母が「今時の水着はこんな感じなんだね」と言う。
「昔はどんなのだったの?」
「おばあちゃんが子どもの頃は男の人はみんな褌(ふんどし)で泳いでいたね」
「へえ。白い?」
「ほとんどがそうだったけど、ある村では絶対に白い褌はダメだと禁止されていた話をおばあさんから聞いたことがあるよ」
「どんな話? 聞かせて!」
「はいはい。準備が終わったらね」
「うん!」
大急ぎで水着とバスタオルをバッグに詰め込んだ。

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【祖母がおばあちゃんから聞いた話】
昔々、拝寄里(はいより)という漁村では不漁が続いていた
しかし強欲な漁師・伝次の舟だけは毎日、気味が悪いほどの大漁だった。
「いったいどうなっちょるんだ?」「特別な餌でも使っとるんかのう?」
村人は不思議がったが伝次は不敵に笑うばかりだった。

伝次の大漁には秘密があった。
不漁に喘いでいたある夜、伝次は「寄らずの岩」と呼ばれる禁忌の岩場に舟を出していた。
そこには不思議なほど魚が集まっていた。
伝次は次から次へと釣り上げ舟の生簀は見る見る一杯になった
「だいぶ釣りましたね」
釣りに夢中になっていた伝次がギョッとして目を上げると、寄らずの岩に美しい女がにこにこ笑いながら座っている。

「大層豪胆なお方…気に入りました。私と契約してくれるなら、いつでも大漁にしてあげましょう。その代わり…」
「その代わり? 命ならやらんぞ!」
女の言葉を遮って、伝次はこう釘を刺した。
女はクスクスと肩を揺らして笑い、そして言った。
「承諾しました。ええ、命はいただきません。私が欲しいのは、『白いもの』。毎日一つずつ、海へ投げてください。白ければ白いほど、大漁をお約束しましょう」
「なに? 白いもの? そんな簡単なことでいいのか」と快諾した。
それ以来、伝次が白い流木や貝殻、陶器の欠片を海へ放り投げるたび、海面が沸き立つほど魚が集まった。

ある嵐の夜、皆が止めるのも聞かず、伝次は欲に駆られて一人で沖へ出た。
いざ網を打つ段になって、伝次は青ざめた。
大漁を急ぐあまり、女へ捧げる「白いもの」を忘れてきてしまったのだ。
舟の中をいくら探しても、白い棒きれ一本残っていない。
「白いものはねえが、一回くらいは…」
伝次が網を投げたその時、波間から女が音もなく舟に這い上がってきた。
「白いものがまだでございますねぇ」
「す、すまん…今日は忘れてしまった。明日は必ず白いものを…」伝次は震えながら、言い訳した。

女の口が耳まで裂け、そして笑った。
「白いもの、あるじゃないですか…とても白いものが!」
「うわー!」
伝次の絶叫は、激しい雷鳴にかき消された。
数日後、伝次を探す村人は「あとはもうここしかない」と禁忌の岩場に舟を出した。
「た…スケてクれ…」伝次の声だ!
舟を回すとそこには村人たちが腰を抜かすほど、無残に変わり果てた伝次がいた。

一本残らず骨を抜き取られ生きた革袋のようになった伝次が、目をキョロキョロさせながらぐにゃぐにゃとのたうっていた。
それから伝次はただの肉の塊として生き続けることになった。
女は「命はいただきません」という約束を守ったのだ。
それ以来、拝寄里では白いものを持って海に出ることを禁じた。
褌も赤いものを身に着ける持ってことがしきたりとなった。

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「なぜ、その女は白いものをほしがったの?」
「光の届かない深い海の中での『道標(みちしるべ)』にするためだとおばあちゃんは言っていたよ」
「女の正体はなんだったんだろう?」
「磯女(いそおんな)という妖怪の一種…かな。九州にもあちこちに言い伝えが残っているよ」
「ふーん…なんだかこわいや」
「水着が白くないから大丈夫!」
「うん。そうだね!」
祖母は笑いながら頷いた。




チョコ太郎より
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