明治生まれの祖母のちょっと怖くて不思議な思い出をまとめた連載「祖母が語った不思議な話」正続編終了時に、多くの方から続編を望まれる声をいただきました。御期待に応えた第3シリーズです。

忘れていた…正確には忘れたいと思い、忘れることができていたはずの話を思い出した。
決して「良い話」ではないので、読まれることをお勧めはしない。

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今から30年ほど前、早良区のバス停にいた
急死した後輩の通夜の帰りだった。
纏(まと)わり付くような雨の降るしきる夜で、バス停に屋根とベンチがあったのは助かった。
薄暗い明かりの下、文庫本を読みながらバスを待っていると、二人の女子高生が走り込んできた。
「 やっぱり降ったね」
「最近、天気予報当たるね」
「来週の試合日も雨マークだよ」
「うそ〜!」
会話から部活の帰りだと分かった。
しばらく本に集中していたが、ちらちら聞こえてくる二人の会話が奇妙な内容だったので意識がそちらに動いた。

「……結局、キミコのおばあちゃんの死因ってどうだったの? お父さん、真っ青になったって言ってたよね?」
「う〜ん、そうなんだけど…あんまイイ話じゃないよ」
「おばあちゃんの部屋、凄かったんでしょ?」
「うん。亡くなる前二月ほど別棟の隠居家に鍵かけて籠ってたのは話したよね。ある日呼んでも返事がないから鍵を壊して入ったら、壁も畳も天井も、とにかく部屋全体にペットボトルやお菓子のラベルを切り取ったものが貼られてたんだ。全部米粒で。警察も理由が分からず首を傾げてた。そして検死でね、おばあちゃんがそのラベルを一枚飲み込んでたのが見つかったの」
「……何それ。おばあちゃん、ボケてたのかな」

「仕方がないのでお父さんがラベルを全部剥がすことにしたんだけど、壁に一箇所だけ、ぽっかり空いた隙間があって、そこに綺麗な筆文字でこう書かれてた。『めがさめるまで、おいておく』って。お父さん、真っ青になって『俺はあの部屋に入りたくない。お前たちも近づくんじゃない』って言ってね。結局業者に頼んだのよ」
「その文字……誰が書いたの?」
「おばあちゃんの字だと思う。それでね、おばあちゃんは今の家に引っ越して来る前にお父さんに何度も話してたんだって。『昔、近所に住んでいた山本の奥さんが、家中の壁に新聞紙をびっしり貼り付けて、最後の一枚を喉の奥に飲み込んで死んでいた』って」
「え……」
「その時も壁に一箇所空白があって、『めがさめるまで、おいておく』って書いてあったんだって」
「やだ! なんでそんな話するの!? 怖いじゃん!」
「何言ってんの! ヤスミが聞いたんじゃない……あ、バス来た」
二人は逃げるようにバスに飛び乗った。

一人残された私は、薄暗闇のバス停に座りながら今聞いた話を考えないようにしていた。
定刻を過ぎてもやって来ないバスを待ちながら。





チョコ太郎より
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