新・祖母が語った不思議な話:その伍拾壱(51)「烏帽子様(えぼしさま)」

明治生まれの祖母のちょっと怖くて不思議な思い出をまとめた連載「祖母が語った不思議な話」正続編終了時に、多くの方から続編を望まれる声をいただきました。御期待に応えた第3シリーズ、今回は祖父から聞いたお話です。

イラスト:チョコ太郎(協力:猫チョコ製作所)

小学校に入った年、母方の祖父が野球帽を買ってくれた。
とても嬉しかったのでなくさないように内側に油性マジックで名前を書いた。
それを見ていた祖父がこんな話を聞かせてくれた。

…………………………………………………

【祖父の話】

時代は大正、祖父が高等小学校に通っていた冬…その日は午後から猛吹雪になり、早めに下校することになった。
祖父と友人の正一は帰り道にある神社の裏の古いお堂の前で、誰が作ったのかも分からない大きな雪だるまを見つけた。
頭に軍帽をかぶっている。

「これ、いいな。俺がもらうわ」
正一はふざけて雪だるまから軍帽をひょいと取り、祖父が止めるのも聞かずかぶって帰ってしまった。

翌朝早く、正一が家に来た。
顔が真っ青でいつもの正一らしくない。

「…ここ見てくれ!」
彼が震える手で差し出した昨日の軍帽の内側を見て言葉を失った。
金糸の刺繍でこう入っていた。

『正一』

「…ね。気味が悪いだろ。うちの母さんは、こんなことしないし……」

正一は軍帽を返しに行こうと言い出した。
一も二もなく祖父も賛成した。

神社裏に着くと、雪だるまは昨日のまま、しんとした空気の中に立っていた。
正一は軍帽を雪だるまの頭に深くかぶせ直した。

「……ちゃんと返したよ」

二人は一度も振り返らずに逃げ帰った。

その夜、吹雪がさらに激しくなった頃、正一の母親が血相を変えてやって来て「正一が帰って来ない」と言う。
「あの雪だるまのところにいるのでは?」と思った祖父は両親と正一の母親を連れ、神社裏へ向かった。

いた! 正一はあの雪だるまの足元に倒れていた。
息はある…そのまま一番近い病院に運び込んだ。
病院に着くと正一はすぐに意識を取り戻した。
あんなに寒いところに長時間いたとは思えないほど元気だったが、用心のために翌日まで入院することになった。

翌朝、見舞いに行くと、正一は気持ち良さそうにベッドで寝ている。
「……正一、大丈夫か?」
声をかけるとゆっくりと目を開け、ふっと穏やかに笑った。
半身を起こした正一は布団の下からゆっくりと何かを取り出した。
あの軍帽だった。

「それ…返したはずじゃ…」
自分の声が震えているのが分かった。

正一はニヤニヤしながら軍帽をかぶってみせた。
まるであつらえたかのように、今の正一に馴染んでいた。

「…この頭がちょうどいい。ぴったりだ」
正一は満足そうに呟いた。

…………………………………………………

「後になって聞いたんだが神社裏のお堂は『烏帽子様』といって、ずっと昔から若くしてに亡くなった人たちのかぶり物を納めている場所だったんだ」
「そうなんだ…正一さんはどうなったの?」
「召集されて大陸に行ったけれど行方知れず。家族の元にはあの軍帽だけが戻って来たので、すぐさま烏帽子様に納めたそうだよ」

烏帽子様…奉納された帽子の中から自分の名前が書かれたものを見つけてしまったら…
そして、それが自分の頭に“ぴったり”合ってしまったら…

祖父の話で世の中には関わらない方が良い場所があることを知った。

チョコ太郎より

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