明治生まれの祖母のちょっと怖くて不思議な思い出をまとめた連載「祖母が語った不思議な話」正続編終了時に、多くの方から続編を望まれる声をいただきました。御期待に応えた第3シリーズです。


「東町に抜ける山道の途中に古い塚があるのは知っとるか?」
「ああ、四面塚と呼ばれとるあれじゃろ」
「そうそう。なぜ四面塚と呼ばれるのか誰も知らんかったんじゃが、由来が分かったのよ」
「ほう! 面白そうじゃな。話を聞かせてくれ」
「儂と同業の白山から聞いた話じゃ」
いつものように立ち寄った杣人の水丸さんと父が縁側で話しているのを聞いて、面白そうだと思った祖母は父の横にちょこんと座った。
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【白山さんの話】
冬の夜、山小屋の手入れで泊まり込んでいると、誰かが戸を叩いた。
「こんな時間に誰だ?」不審に思いながら戸を開けると痩せた老人が震えながら立っている。
外はひどい吹雪。
「寒かったでしょう、こちらに来て火にあたりなせえ」
老人を中に入れ、餅を焼いて食べさせた。
体が温(ぬく)もった老人は頭を下げると話しはじめた。

「儂は代々月に一度、四面塚に水と供物をそなえる役目のある者ですじゃ。急な吹雪で山も下りられずこの小屋の灯を頼って来ました」
「それは難儀でしたなぁ。四面塚とはここを少し登ったところにあるあの古い塚ですな。あそこは何を祀っているのですか?」
「助けてもらったお礼にあの塚の由来をお話ししましょう」
そう言うと老人は語り始めた。

今から五百年ほども前、炭焼きの…名前は竹造としておきましょう。その竹造が山から真っ青な顔をして村に駆け降りてきました。
「小屋に、恐ろしいものが来た……」竹造はそう絞り出すと、糸が切れたように気を失いました。
これは捨て置けないと、翌朝力自慢の若衆三人が真相を確かめようと炭焼き小屋に向かいました。
小屋の扉を蹴り開けると、そこには顔の皮を無残に剥ぎ取られた男が倒れていました。
駆け寄ってみると背格好や着ている物から竹造だと分かりました。
「逃げろ! 村にいるのは……」
竹造が口を開いたとき、天井からくぐもった声が聞こえました。

「もふぉもふぉ、三人も釣れたぞ」
若衆たちが見上げると、天井の梁から三つの影が蜘蛛のように降りてきました。
「お前さんたちの皮、若くていい色だなぁ」
断末魔の叫びは深い森に吸い込まれていきました。

その日の夕暮れ。
意識を取り戻した〝竹造〟が村人たちと談笑しているところへ、山から三人の若衆が手を振りながら戻ってきました。
「おお、無事だったか!」
村人たちが安堵して駆け寄ろうとしたその時、村一番の猟犬・クマが見たこともないほど毛を逆立て、狂ったように吠え立てました。
そして 飼い主がなだめるのも聞かず、猛然と一人の若衆の顔面に飛びかかったのです。

クマの鋭い牙は若衆の頬に深く食い込みました。しかし、そこからは血は一滴も流れません。
クマがそのまま力任せに首を振ると、若衆の「顔の皮」は、お面のようにズルリと剥がれ落ちたのです。
剥がれた皮の下から現れたのは、目も鼻もない青白いのっぺらぼうでした。
「……犬の鼻は誤魔化せねえな」
のっぺらぼうはもごもごとそう言いました。
それを合図に、〝竹造〟と他の若衆も自身の顔を引き剥がしました。
正体を現した四体の化物は山へと走って消えていきました。

小屋に行ってみたけれど四人の骸(むくろ)は残っておりませんでした。
村人に残されたのは、表情を失った四枚の「顔の皮」だけ。
せめてもの供養にと築いた石塚…それがあの「四面塚」なのでございます。

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「そんな謂(いわ)れがあったのか! いや興味深い!」
「しかし、恐ろしい話じゃのう…顔を取る化物っちゅうのは」
「お前は心配せんでも大丈夫だな」
「なんでじゃ?」
「そんなまずい顔、化物も要らんじゃろ?」
「阿呆!!!」
水丸さんはぷりぷり怒りながら帰って行った。





チョコ太郎より
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