新・祖母が語った不思議な話:その参拾陸(46)岩見と蜘蛛「真っ黒」

明治生まれの祖母のちょっと怖くて不思議な思い出をまとめた連載「祖母が語った不思議な話」正続編終了時に、多くの方から続編を望まれる声をいただきました。御期待に応えた第3シリーズ、今回は「岩見と蜘蛛」のお話です。

イラスト:チョコ太郎(協力:猫チョコ製作所)

「やれやれ、年始回りもなかなか疲れるな」
「そうですか? 私は楽しかったですよ」
「そうか?」
「ええ。人間のしきたりは面白い」
そんなことを話しながら家に戻ってきた岩見と絲が門を潜ると、十歳くらいの娘が出迎えた。

「其処許(そこもと)は?」
「あら…お前さん、あのたぬきじゃないか」

娘は「新年のご挨拶に参りました」と頭を下げ、番傘と真っ黒な炭を岩見に手渡した。
「良い炭だな! してこの傘は?」
「ありがとうございます。この炭は私が初めて焼いたものです」
「そういえばあんた、炭焼きの治平(じへい)さんに引き取られたって聞いたよ」
「はい」
「少しは術が使えるようになったかい?」
「尻尾に灯をともすことと、小さな火の玉を出すこと…それから…」
そう言いながら娘が手をかざすと門松がくるくると回り始めた。

「ほうすごいな!」
「たいしたもんじゃないか! でも、あの炭焼き小屋のある山には性(たち)の悪い黒獣(くろけもの)が出るって噂だけど、大丈夫かい?」
「拙者もその話は聞いた。正月が明けたら調べに行こうと思っている」
「あ、あれは心配いりません…私が退治しました」
「えっ?!」
「なにっ?!」

驚く二人にたぬきは話し始めた。

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【たぬきの話】

身寄りのない私を引き取ってくれた炭焼きの治平おじいさんは、とても優しくしてくれました。
いろんなことを教えてくれ、温かいご飯を食べさせてくれ、雨の苦手な私に立派な番傘まで作ってくれました。
おじいさんが働くのをずっと側で見ていて、炭の作り方も覚えました。

「良いものが手に入ったぞ。食べてみろ」
昨年の年の暮れ、おじいさんは大きな瓶を持ち帰りました。
言われるまま味わうとそれは信じられないほど甘い。
「うまかろう? 水飴と言うんじゃ」
おじいさんは満足そうに笑いました。

ことが起こったのは翌日です。

山へ入った治平おじいさんが夜になっても戻りません。
そうこうするうちに雨も降り出したので番傘を持って山へ探しに行きました。
中腹あたりに来たときには幸い雨も止み、月が顔を見せました。
杉林の奥まで行くとおじいさんが倒れていました。
駆け寄って揺すると目を開け、そしてこう言いました。

「逃げろ!」

その時です。不気味な唸り声を上げながら巨大な影が現れたのは。
煌煌と輝く月の下でも墨汁をぶちまけたような真っ黒な姿…黒獣!

おじいさんを守ろうと番傘を構えたのですが、黒獣は嘲笑い襲ってきました。
「ジジジジ…無駄なことを。お前から先に喰ってやるわ!」
私は避けるのが精一杯でしたが、あることに気が付きました。
黒獣の目は私の尻尾の灯を追って動いているのです。

それなら…

私は尻尾をできる限り明るく光らせ、小屋を目指して走りました。
思った通り追ってきます。
途中で灯を消しじっとしていると黒獣は私を見失いました。
音を立てないように進み、小屋に着くと開いた番傘を逆さにし、その中に瓶の水飴を全部入れ黒獣を待ちました。

「ジジジジ…見つけた見つけた!」
遅れて小屋に入って来た黒獣は、こちらに向かって突進してきました。

今だ!

私は傘を回転させ、火をつけました。
「ぐわぁぁぁぁあ!」
回転する傘から溶けた飴が黒獣に降り掛かりました。

飴は細く長く強靭な「黄金の糸」となり渦を巻き、黒獣はそれに絡めとられ動けなくなりました。
ここでようやく、黒獣の正体が分かりました。
それは、互いに羽を絡ませ合った数千匹の塵のように小さな羽虫だったのです。
飴の繭の中で黒獣は動かなくなっていきました。

山に戻ってみると治平おじいさんも無事でした。

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「う〜む、お見事」
「ちょっと見ない間に立派になったじゃないか! もう安心だねぇ」
「ありがとうございます。おじいさんも褒めてくれました」
「それは良かった」
「はい。それで魔除けになるかと思い、おじいさんにお願いして作ってもらった番傘をお持ちしたのです」
「そうかい! すまないねぇ。…あ、そうだうちでお雑煮食べておいきよ」
「ありがとうございます!」
たぬきは腹一杯雑煮を食べ、土産に餅までもらっておじいさんの待つ炭焼き小屋に帰って行った。

「今年は良い年になりそうだ」
岩見のつぶやきに絲はにこにこしながら頷いた。

チョコ太郎より

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