私の祖母は裁縫が得意な人でした。その祖母が作り残っているもののひとつが、子ども用の着物。その着物は私の母が着て、私や私の姉が着て、今私の娘に受け継がれています。その着物で行った初詣で、見知らぬ女性から突然、娘の着物が「偽物」と言われて…。
初詣で着物を着た娘

着物は代々大切に扱ってきたので、とても良い状態のまま。50年以上前に作られたものとは思えないくらい赤や白の色味がきれいで、時代を経ても色褪せないものになっています。
ただ、普段着物を着る機会がないので、七五三くらいしか出番がありませんでした。そんなとき、義母から「私が着付けをするから、お正月に着て初詣に行かない?」との提案が。7歳の娘もその案に乗り気だったので、義母に着付けをしてもらってお正月から着物を着て出かけることにしました。
そして元日。娘は義母に着付けをしてもらい、夫と3歳の息子、義両親と共に、地元の大きな神社にお参りに行きました。
娘は新年から普段と違う格好ができ、お化粧や髪の毛のセットもしてもらってニコニコ。地元の神社ということもあり、何人か友達にも会い、「かわいい!」「新年から着物なんて素敵!」と言われて、娘はずっと上機嫌。私たちも終始楽しい気持ちで過ごしていました。
近づいてきた着物警察

お参りを終え、おみくじを引き、神社内で甘酒を買ったので、ベンチに座って過ごしていた私たち。そこへ、70代くらいで、着物を着て髪の毛もきれいに結い上げた女性が近づいてきました。
私たちの前で歩く速度を落としながら、じっと娘の方を見てくる女性。不穏な雰囲気に大人たちが身構えていると、女性は眉をしかめながら口を開きました。
「安っぽい着物。ポリエステルの偽物なんか着て。そんな着物なら着ない方がいい。日本の恥だよ」と言い放ったのです。
突然の辛辣な言葉にあ然とする私と夫。娘も戸惑った表情をしています。しかし、もちろん着物は本物です。けれど、言い返したら娘や息子に何かされるのではないかと思ってしまい、いら立ちを感じながらも何も言い返せずにいました。
義母が着物警察に対峙

すると義母が私たちの前に少し出て、
「このお着物、お嫁さんのおばあちゃんがこしらえたものなんですよ~!だからおっしゃる通り、値段がつけられるものじゃないんですけどね。私も着付けなんて普段しないから、間違ったところがあったかしら?もっと勉強しないといけませんねぇ~」とニコニコと返したのです。
義母のスーパーポジティブな返しに面食らったのか、女性は気まずそうな顔をして黙って行ってしまいました。その背中を見送った後、くるりと振り返った義母は娘に
「新年は色んな人がいてびっくりだねぇ、こーんな素敵な着物なのに」と優しく言いました。
義母の言葉で一気に場の緊張が解け、「はぁ、びっくりした…」「なんだったんだろ」と小さな声で驚きを口にする大人たち。娘は娘で不安そうな顔で
「この着物は偽物なの?」と聞くので、慌てて
「本物だよ!おしゃれすぎてパッと見ただけじゃわからなかったのかもね」と否定しました。
その後見かけた様子では、女性は1人で、ずっと神社の中をあてもなくウロウロしているようでした。もしかしたら、みんなにちやほやされ、家族で楽しく笑いあっている娘や私たちを疎ましく思ったのかもしれません。いずれにしても、義母の機転を利かせた明るい返しで嫌な空気のまま終わらずに済みました。
本当に日本の伝統を重んじて着物を大切に思っているのなら、着物の価値を勝手に見定めてマウントするようなことはしないでしょう。むやみに他人を否定する人の言葉を気にする必要はないと年の初めに悟ると同時に、娘や私たちのために動いてくれた義母に強く感謝した出来事でした。
(ファンファン福岡公式ライター/K)





