Re:祖母が語った不思議な話・その拾(10)「鳩笛」

私が小さい頃、明治生まれの祖母はちょっと怖くて不思議な話をたくさん聞かせてくれました。祖母の思い出とともに少しずつアップしていきます。
※「祖母が語った不思議な話」シリーズは現在も連載中ですが、サーバー変更にともない初期の話が消えてしまったので、再アップしていきます。

イラスト:チョコ太郎(協力:猫チョコ製作所)

小学一年生のとき、箪笥の上のガラスケースの奥に土で作られた古い鳩笛があるのを見つけた。
「こんなのあったよ」と祖母に見せると
「まあ、懐かしい!まだ残ってたんだね」と目を細める。
「これおばあちゃんの?」
「そうそう。これを手に入れたお話がちょっと不思議なのよ」
「きかせて!きかせて!」
それではと祖母が語り始めた。

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【祖母の話】

楽しみにしている夏祭り。
五歳になったその年も祖母はうきうきと出かけて行った。
友達みんなで踊りをおどり、金魚すくいをし、屋台で飴細工やおでんを食べて楽しんだ。

翌日、友だちの家に寄ると、奥から出てきた友だちが手になにか持っている。
見るとそれは、鳩の形をした笛だった。

「ほーほー」

友だちが吹くと本物の鳩が鳴いているようで、なんとも可愛らしく思えた。

「それ、どうしたの?」欲しくてたまらなくなった祖母は尋ねた。
「昨日、屋台で買ってもらったよ」
それを聞いて、祖母はたいそうがっかりした。
夏祭りは昨夜で終わり、屋台もよその村に行ってしまったからだ。

あきらめのつかなかった祖母は夏祭りの会場にも行ってみたが、人っ子ひとりいない。
悲しい気持ちで家に帰っていると、夕暮れの神社に灯がともっているのに気がついた。
「なんだろう?」
祖母が近づいてみると、なんとそれは屋台だった。

狐の面に張り子の虎、起きあがりこぼし…あった!鳩笛だ!
夢のような気持ちでお金を払い、鳩笛を大事に握りしめ、走って帰った。
家につくと、嬉しくて何度も吹いてみた。
それを聞いた祖母の兄が「俺も欲しい。どこで買ったんだ?」というので神社の屋台の話をした。
兄は飛び出して行った。

それから小一時間…兄は不機嫌そうな顔でもどってきた。

「屋台なんか無かったぞ!」
「本当に神社の境内にお店が出てたんだよ!ここにちゃんと鳩笛あるでしょ」
兄はぶつぶつ言っていたが、そのうちあきらめた。

その後、友だちみんなにも聞いたが、その屋台を見たものはいなかった。

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「ほしいほしいという気持ちが通じて、その時だけまぼろしの屋台が現れたとしか思えなかったよ」
語り終えた祖母は鳩笛を吹いた。

「ほーほー」

どこかで聞いたことがあるような、懐かしくて少し寂しい音がした。

チョコ太郎

初期話が消えてしまったので、あらためて読めるようにアップしていきます。また、「新・祖母が語った不思議な話」も連載中ですので、ご希望や感想、「こんな話が読みたい」「こんな妖怪の話が聞きたい」「こんな話を知っている」といった声をぜひお聞かせください。一言でも大丈夫です!下記のフォームからどうぞ。

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