面白がって平気に生きればいい——俳優・樹木希林さんが生前幾度となく語り、今もなお多くの人の心に寄り添い、前を向かせてくれる言葉だ。
ポスターにその言葉が躍る、樹木希林さん最後の展覧会が、11月27日、大丸福岡天神店で幕を開けた。写真や映像、愛用品や言葉の数々がひとつの場に揃い、希林さんの思想が息づく展覧会。そのエッセンスを実娘・内田也哉子さんのガイドに導かれながら、ほんの少しだが紹介したい。
独自のクリエイティビティを受け継いで 也哉子さんの母から学んだこと

「母はアバンギャルドな人。子どもの頃におもちゃや洋服を買ってもらったこともありません。幼い頃は、もっと普通のお母さんがよかったと思っていましたが、すでにたくさんのものがある消費文化の中で、自分のもとにやってきたものを自分のクリエイティビティで面白いものにして、また使ってゆく。世の中の風潮に流されないで、自分がいいというものを貫ける人だったし、そのエスプリのようなものが私の中にも残っていると感じています。」
也哉子さんが着られていたモダンなストライプの洋服も、友人からもらった着物を仕立て直したもの。人の手で丹精を込めて作られ大切にされてきたものが、他の人の手に渡り、時にかたちを変えながら、使われてゆく。展示されている一つひとつには、人との関わりや、自分で施した工夫という‟ドラマ“があり、快適で実用的なものが多い。

会場内の数か所で「希林のお服分けブティック」を展開
そういったものと人に対する思想を象徴しているのが、福岡会場限定の特別企画、希林さんの服の展示即売会「希林のお服分けブティック」だろう。
希林さんのスピリットに溢れた愛着の品を先着でその場で買うことができるというびっくり企画。その売上の一部は未来の子どもたちのために寄付される予定だという。
「母が亡くなって7年。母の服をずっと手放したくないという思いを‟重り“にして、しがみついていくのは何より母らしくないなと。もらってくれる人に面白がってもらって、また旅がはじまる。ひかげになっている人の役に立つようにということも母がよく言っていたことで、本人もきっと喜んでくれると思います。」


愛用品と珠玉の言葉で辿る、樹木希林さんのメッセージ
会場には、生前の仕事、プライベート写真の他に、希林さんが愛した自宅やそこから見える風景、愛用の品々が並ぶ。そして、特筆されるのは、手紙やFAX、インタビュー等で語られた珠玉の言葉の数々だ。
「人生においてつまずいたり転んでしまったときにも、面白がるというのが母でした。悲劇に思うようなことでも、視点を変えてみることによってポジティブなことに変えてゆけるということを教えてくれました。子どもであっても、嘘やきれいな言葉でごまかさずに、ちゃんと向き合ってシェアしてくれた。非常に情の深い人でもあったと思います。」
俳優という仕事、日常生活をすべて‟心の作業“ととらえ、人生にぶつかりながらも決して目を背けず、その生き様を通してメッセージを残してくれた樹木希林さん。
展覧会は、12月15日まで。一人でも多くの人にその声が届くことを願う。


樹木希林展~遊びをせんとや生まれけむ~
会期:11月27日(木)~12月15日(月)
会場:大丸福岡天神店 本館8階催場
開場時間:10:00~18:00(最終入場は17:30まで) ※最終日は17:00閉場(最終入場は16:30まで)
入場料:一般 1,500円 高校生以下 1,000円 ※未就学児は入場無料
公式HP https://www.daimaru-fukuoka.jp/shopblog/detail/?cd=018486&scd=000601

