みなさん「エコチル調査」って聞いたことありますか？ 実はこれ、環境省が2011年からスタートさせた国家プロジェクトなんです。福岡市では九州大学を拠点に実施されています。どんな調査なのか九州大学エコチル調査のスタッフの化身・エコちゃんに聞いてみました。
はじめに
私たちを取り巻く社会環境、生活環境は大きく変わってきました。
近年、子どもたちの間ではぜんそくやアトピーなどの疾病が増加していて、その多くは環境の中の物質、運動や食事などの生活習慣、遺伝的な性質などが関係し合って起こるとされています。
子どもたちの健全な成長・発達に、環境要因が与える影響を明らかにすることは重要だと考え、エコチル調査は始まりました。未来の子どもたちのためにこれからもエコチル調査は続きます。
「エコチル」ってどういう意味？
正式には「子どもの健康と環境に関する全国調査」といいますが、みなさんに親しんでもらえるよう「エコロジー（環境にやさしいこと）」と「チルドレン（子どもたち）」を組み合わせました。
どんなことを調べているの？
赤ちゃんがお母さんのおなかにいる時からその成長を追跡調査している大規模な疫学調査※です。2011年から14年に参加者を募集し「未来の子どもたちのためになるなら…」と全国で約10万人の妊婦さんが協力してくれました。そのうち、福岡市では九州大学が現在約4,200組の親子と一緒に調査を続けています。10年以上続いていて、この規模の調査は世界的にも貴重な研究なんです。
※人間になんらかの影響が生じているのかどうかを、実際に人間の集団で観察する調査を疫学調査といいます
どんな調査をしているの？
参加している親子から血液・尿・毛髪・乳歯などを分けてもらい、その中に含まれる化学物質の分析をしたり、定期的な質問票の回答や任意の対面調査に参加してもらったりし、子どもたちの成長や発達、病気などの情報を集めています。お母さんのおなかの中にいる頃からのデータはとても貴重なんですよ。
調査の目的は？
環境が子どもたちの健康や成長に与える影響を調べ、未来の子どもたちが安心して健やかに育つ環境をつくることです。
環境汚染（大気汚染、化学物質、ストレス等）により健康被害の問題が生じたときに、同じ環境にいた大人よりも胎児や小児が深刻な被害を受けたと考えられる事例があり、環境の変化に対する子どもの脆弱（ぜいじゃく）性への関心が世界的に高まっています。
集まったデータから子どもの成長や健康に影響を与える「環境要因」を探し、解明していくことを目指しています。
社会にどう役立つの？
データの分析から分かったことは「健やかな子育てが行える環境づくり」の政策や取り組みに役立てます。またエコチル調査はSDGs（持続可能な開発目標）のうち、目標3「みんなが健康で安心して暮らせるようにする」、目標12「環境を考えたものづくりをし、資源を上手に使う」に関係しているんですよ。
＜妊娠や子どもの健康に関するガイドラインなどの策定に貢献＞
「評価書 鉛（2021年6月 食品安全委員会）」
妊婦（約10万人）の血中鉛濃度のデータを引用
母体血中鉛濃度（μg/dL）、5μg/dL 以下を拡大表示
「評価書 アレルゲンを含む食品 卵（2021年6月 食品安全委員会）」
「食物アレルギーの診療の手引き2020」
「食物アレルギー診療ガイドライン2021」
「アトピー性皮膚炎診療ガイドライン2021」
「小児気管支喘息治療・管理ガイドライン2023」
子ども（約9万人）の免疫アレルギーについて集計した論文を引用
中央：（出典）日本小児アレルギー学会作成，海老澤元宏，他監修．食物アレルギー診療ガイドライン2021．協和企画， 2021．
右：（出典）日本小児アレルギー学会作成，滝沢琢己，他監修．小児気管支喘息治療・管理ガイドライン2023．協和企画，2023．
「妊娠中の体重増加曲線（妊娠前BMI別）（2021年9月報道発表）」
妊婦（約10万人）の健診情報を用いて作成
（例）妊娠前BMI18.5～25 妊娠前BMI別に4通り作成
妊娠中の体重増加曲線
「乳幼児発達検査スクリーニング質問紙（日本語版ASQ-3）（2021年10月発行）」
パイロット調査参加者（約400人）のデータを用いて基準値を設定
「産婦人科診療ガイドライン産科編 2023（2023年８月発行）」
右：（出典）産婦人科診療ガイドライン産科編2023編集・監修 日本産科婦人科学会／日本産婦人科医会
調査はどうやって実施されているの？
環境省が企画立案し、国立環境研究所が中心となって調査をとりまとめ、国立成育医療研究センターや全国15カ所のユニットセンターの協力で実施しています。九州大学はその中のひとつ、福岡ユニットセンターに所属しています。
「九大エコチル調査事務局」はこんなところにあります！
事務局がある福岡市東区馬出の九大病院地区は、千利休が豊臣秀吉朝鮮出兵の際に茶の湯をたてた「利休釜掛の松」史跡、カール・ミレス作「神の手」という彫刻がそびえ立ち、見学ができる医学歴史館もあります。
緑も多く季節の花も美しいところです。
今までにどんな成果があったの？
エコチル調査のデータを使った研究が全国の大学や研究所で行われていて、現在約500編を超える論文が発表されています。これらは国の報告書やガイドラインの指標に使われたり、高校の保健体育の教科書にエコチル調査が紹介されたり、10年以上続いている調査の成果が社会の役に立っています。
成果の紹介はこちらから URL：https://www.env.go.jp/content/000215015.pdf
調査で分かったこと 一部を紹介
子どもの睡眠と気質は関係する？
生後1カ月の子どもでは、昼間に長く寝るほど、よく泣いたり、強く泣いたりすることが多いということが分かりました。特に女の子でこの傾向が見られました。
昼と夜の睡眠時間を調整することで、泣きやすさや激しい泣きが減るかもしれません。
妊娠中のお母さんの血液と赤ちゃんの発達の関係は？
妊娠中のお母さんの血液の濃さ（ヘモグロビン濃度）と、1歳の子どもの睡眠や発達の関係を調べました。その結果、お母さんの血液が薄い（貧血がある）と、赤ちゃんが夜遅くに寝る傾向や、発達に問題が起こりやすい可能性があることがわかりました。
妊娠中に貧血を防ぐことは、赤ちゃんの健やかな成長にもつながるかもしれません。
お母さんの運動量が子どもの睡眠や発達に関係？
妊娠前、妊娠中のお母さんの身体活動量が多いと、 1歳の子どもでは遅い時間まで起きていることが少なく、発達の問題も起きにくいことが分かりました。
妊娠前からよく体を動かすことがお母さん自身だけでなく、赤ちゃんにとっても良いことかもしれません。
これからのエコチル調査は？
当初は子どもが13歳になるまでの調査でしたが、13歳以降も継続することになりました！ 社会貢献度が高いプロジェクトと評価されたんです。参加者募集は締め切っていますが、エコチル調査は参加者さんの協力のおかげで成り立っています。未来の子どもたちのために頑張る参加者さんが皆さんの身近にもいるかもしれません。未来の子どもたちのために、調査を支える参加者さんを応援してください！
「子どもの健康と環境に関する全国調査（エコチル調査）」のご紹介
九州大学・環境発達医学研究センター特任准教授 落合正行 先生
赤ちゃんを妊娠したお母さんは、元気な赤ちゃんを産むために、どのようなことに気を付ければよいのでしょうか？ 生まれた赤ちゃんが元気に育つためには？ 大きくなった子どもたちが健康な大人になるためには？
そして、将来元気な赤ちゃんを産むためには？ エコチル調査とは私たちが生活している環境が、将来の私たちの健康に与える影響を科学的に調べる国家プロジェクトです。
全国で10万人、福岡市から約4,200人のお母さんに参加していただき、生まれたお子さんが40歳になる頃まで調べます。みんなの健康のために、エコチル調査と参加者への応援よろしくお願いします。
詳しい研究成果はホームページで
研究成果については九州大学エコチル調査ホームページ、環境省エコチル調査ホームページで詳しく紹介しています。
九州大学 エコチル調査 ホームページ
URL：https://eco.kyushu-u.ac.jp/
環境省 エコチル調査 ホームページ
URL：https://www.env.go.jp/chemi/ceh/
※2025年12月5日号掲載
